Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
急いでカフェの方へ向かい、渡瀬と途中合流した。

一足到着が遅く、その時にはすでに環菜とあの2人が外で接触してしまっていた。

いつものように三上さんが自分の主張を高飛車に話しており、隣の男はいやらしい目で環菜を舐め回すように見ているところだった。

その男の手が環菜へ向かって伸びてきたところを見るやいなや、僕はその場に姿を現して環菜を後ろから支えるように抱きとめた。

よくも環菜まで巻き込んでくれたなと怒りがふつふつと湧いてくるが、その怒りを笑顔の裏に隠して努めて冷静に接する。

冷静に冷静に獲物を仕留めるように追い詰め、証拠を突きつけ、やんわりと脅し、二度と歯向かわないようにしてやった。

三上さんから「優しいと思ってたのにそんな人だと思わなかった」というようなことを言われたが、勝手にそう解釈していたのはそちらだ。

こんな表面上の僕の笑顔だけを見て理想を抱く方が馬鹿なのだと言ってやりたいところだった。

何事か起こる前に無事に撃退し、渡瀬も帰っていき、その場に環菜と2人きりになった。

後ろから抱きしめていた身体を離され、「ああ今日も避けられるのか」と思っていたら、くるりと振り向いて正面からしがみつくように抱きしめられた。

予想外の環菜の行動に驚く。

さらに驚くべきは、仕草や振る舞い、そして僕を見つめる目が、ここ最近のよそよそしいものとは全く違うのだ。

まるで僕のことが好きで堪らないという気持ちが溢れ出したようなものだったのだ。

(これは外にいるから婚約者役をただ演じてくれてるだけ‥‥?それとも本当に僕のことを想ってくれてる‥‥?)

環菜の言動は本当に不可解だ。

何を思っているのか読み取れなかったが、たとえ婚約者役として演じてくれているだけでも、環菜に触れたくてたまらなかった。

僕はおでこ、まぶた、頬と、慎重に上から下へと順番にキスをしていく。

環菜は全く嫌がる素振りを見せない。

それを確認すると、唇にキスを落とす。

この時また予想外なことが起こった。

なんと環菜の方からも僕を求めるように、積極的にキスに応じてきたのだ。

夢中でという表現がしっくりくるほど、お互いに深く深く求め合う。

それを嬉しく感じたのは束の間だった。

なぜなら家に帰ると、さっきまでの甘い空気は幻だったかのように消えたのだ。

環菜の振る舞いも、僕のことをなんとも思っていないものに戻っている。

やはりあれは役になりきっていただけなのだろうか。

それなら婚約者役を演じている環菜でもいいから、僕を好きな気持ちで溢れたあの状態の彼女とせめてもっと一緒にいたい。

そこで僕はある提案を環菜に持ちかけたーー。

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