王子様とお姫様の甘い日常
──「だからっ……あたしの勘違いかもでしょ」

「じゃあなんで僕に黙ってレディースクリニックに行こうとするわけ?」

「それは……。あ、あたしの勝手でしょっ」

「実花子の勝手は、僕の勝手だからね。ほらいくよ」

「ばか、離してっ!二人揃っていって……もし違ったら……なんか恥ずかしいじゃないっ」

「僕は全然恥ずかしいこと何もないけど。実花子が好きだから避妊しないだけで、避妊しないから妊娠の可能性が大いにあるわけで」

「ばかっ!」

実花子が長いベージュの髪を揺らしながら、千歳の胸をトンと掌で突いた。


「おい、お前ら仕事サボって痴話喧嘩かよっ」

俺の声に二人の動きがピタリと止まる。

「え?何で?……颯?」

「へー、颯先輩もサボりすか?」

千歳が顔色ひとつ変えずに俺をちらりと見ると、すぐに呆れたような顔をした。

「あんな、お前に呆れられる覚えねーからな!」

俺の言葉にすぐに実花子が返事をする。

「ちょっと、颯!今日の午後からは、星川社長と打ち合わせで、そのあとはTONTONの殿村本部長とタワマン建設に関する契約の日でしょ!」

「うるせぇな。美弥の健診のが大事だろ」

俺の言葉に、隣の美弥が大きな瞳をキュッと細めた。
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