王子様とお姫様の甘い日常
「颯先輩、マジでめんどいっすね。また逆ギレすか?いや、拗ねてんの?いちいち避妊したとかしないとか、子供できたかどうかなんて、颯先輩に逐一報告する義務ないでしょ」

「ばかばかばかっ!千歳のばかっ!まだ妊娠してるかわかんないからっ」

実花子が千歳を睨みあげ、千歳の胸を拳で叩くと、千歳がムッとした顔をした。

「え?何?まさかと思うけどさー、実花子は僕との子供欲しくないわけ?僕は、はやく実花子と結婚したいし、実花子を誰にもとられたくないし、本当は誰にも見せたくないくらい大好きだし、子供だって、本気でいますぐにでも欲しいから避妊なんてサラサラする気ないし、婦人科の先生から、もし心当たりなんてもの聞かれたら、思い当たる節がありすぎて、どこから答えたらいいか全然わかんないんだけど!」

千歳の涼しい顔で一息で言い放たれた言葉に、実花子が真っ赤になって、俺と美弥は口をポカンと開けた。

(おい、まじかよ……俺の貴重な午後休を、こんなバカップルに使ってたまるか!)

その時、美弥が俺の掌をさきにそっと握る。

「えと、颯。実花子さんも千歳くんもその……忙しいし、ね。そろそろ行こう?」

「あぁ……そだな。邪魔したな、俺らもう行くわ」

俺の言葉に千歳が盛大に頷いてくる。

「そうそう、颯先輩はせっかくのズル休み、美弥と楽しんできてください。じゃあ僕達は僕達の可愛いたまごの確認しにいくんで。ほら、実花子いくよ」

「ちょ……待……千歳っ」

俺に時間を取られたからだろう。やや不機嫌になった千歳に手を引かれながら、実花子が俯きがちにレディースクリニックのエントランスを潜る。

俺は二人の姿が見えなくなってから口を開いた。

「……ありゃ、ガキ、デキてんな。なんとなくだけど」

「うん。私もそう思う……千歳くん自信満々だったし」

「確かにな。すごい剣幕だったな、アイツ」

俺の言葉に美弥が一瞬、宙を見る。

「あれ?もしおめでただったら……うちと同い年かな?」  

俺は頭の中でさっと計算をした。

「えっと……お、そうだな!」

「ふふっ、そっか。今年は益々賑やかになりそうだね」

「だな」

俺は美弥の笑顔に目を細めながら、美弥を車の助手席に座らせるとすぐにエンジンをかけた。
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