青天、哉。
「なあ、うちに来るか?」
と頼人に言われた夢を見て、目を覚ました朝。
私は、修学旅行で使ったきり、一度も使っていないピンクのスーツケースに、着替えやら、化粧品やらを詰め込んで、家を出た。
18歳の夏のことだ。
あの夏は、今思い出しても、今までで一番暑い夏だった。そして、これから先の人生でも、こんな暑い夏はやってこないと思う。
スーツケースを転がしながら、あの路地を登って、すぐのところにあったボロボロのアパート。
そこの2階の奥の部屋のインターホンを押す。
上裸の頼人が、咥えタバコで出てきて、私は有無を言わさず、上がり込んだ。
「ケンカか?」と頼人は聞いた。
「いや、そうじゃなくても、だ。俺は許可しない」
「私が何をするつもりか、わかっているの?」
「その荷物を見れば、大体わかるさ。そこまで鈍感じゃない」