青天、哉。
そんなアゲハが死んだのは、その年の秋のことだった。
轢死だった。
「駅のホームから落ちた酔っ払いを、ヒールを脱いでまで助けようとする奴ってさ、どんな奴なんだろうな」
と頼人はビールを飲みながら、しみじみ言った。
「それは、あなたが一番わかっていることじゃないの?」
「そうだよね。うん、そうだよね」
さっきよりもしみじみ言った。
無理に納得するような、そういう感じに見えた。
頼人は泣かなかった。
アゲハが死んで、一度も泣かなかった。
いや、きっと泣けなかったんだと思う。
私は泣きに泣き崩れて、ご飯も食べられなくなるくらいに泣いて、体重も5キロ落ちた。
そんな同居人を見ていると、誰だって泣けないんだろうなって思う。
うーん、思いたかっただけかもしれない。
私がもし死んだ時、頼人は泣いてくれるのだろうか。
その不安をかき消すように、そう思い込んだだけだったような気がする。