青天、哉。
思えばあの頃からだと思う。
私には話術がないということを自覚したのは。
頼人に一度、こんな話をしたことがあった。
「今日、バイト先でね、おじさんが来てたの。そのおじさん、いつもエビグラタンを注文するんだけど、今日はなぜか山菜うどんだったんだよね。気になって聞いてみたら、そのおじさん、なんて言ったと思う?」
「さあ。なんて言ったの?」
「痛風になったんだ。だってさ!」
頼人は、「へー」とだけ言って、放屁した。
実際にその場面に遭遇した私は、とても面白かったのだ。
おじさんの禿げた頭も、しゃくれた顎で言う「エビグラタン」の言い方も、「痛風」が「チューフー」に聞こえたことも、レジでお会計を済ませて、足を引きずりながら帰ったことも。
でも、文章にするなら、そんな情報はない方がいい。それは、学校で国語の授業の、「おじさん」、「エビグラタン」、「山菜うどん」、「痛風」という言葉を使って、〇文字以内の文章を作れ。というような問題で散々やってきた。
しかし、実際に求められるものは、道案内くらい正確で、細かい情報だ。
だったら、あんな授業に何の意味があったのか。やっぱり学校なんか行かない方がいいじゃないかという気持ちになってくる。