青天、哉。
頼人が書く小説は、読者もご存知の通り、大成しなかった。
それでも、頼人は何かに取り憑かれたように、パソコンを開いて、注文したホットコーヒー、冷めてしまうほど、熱中して書いた。
傍でただぼーっと座っていた私には、目もくれず、書いては消して、書いては消してを繰り返した。
そして、スマホのアラームが17時30分を知らせると、頼人はパソコンを閉じて、冷めたコーヒーを飲み干した。
「帰ろっか」
「うん」
空はすっかり暗くなっていた。
しかし、こんなに街は明るくて、夏祭りのそれを思わせる。
それでも、路地を1本、2本外れると、たちまち辺りは暗くなって、
街灯に照らされながら、並んだ二人の影は、不思議な関係のそれを表していた。
「寄り道、しようか」
と頼人が言った。
「いや、大丈夫」
と私が言うと、頼人は急に、私に抱きついてきた。
「お願い……します」