青天、哉。




だから、私は黙っていた。


放っておいてもいずれ、自分で自分を滅ぼすことになるだろうと思っていたからだと思う。


男は、単純だって女は言う。


だから、女が考えているよりも、実はもっと、もっと単純で、しかし、その単純の海を、深く、深く、潜るから、複雑なんだと思う。


頼人も、例に漏れず、単純な男だ。


しかし、その深さや複雑さは、おそらく誰にも理解できないんだと思う。


理解しようとすればするほど、溺れる。


息ができなくなって、苦しくて。


でも、その苦しさの先には、頼人がいる。


苦悩している頼人が、いる。


私は、苦悩している頼人を、見ていたかった。


傍にいて、支えてあげたかったのだ。


それは、頼人が私を求めてきたから。


求められた私にできることは、頼人と同じ次元、とまではいかなくても、誰よりも近くで、同じ空気を吸い、同じように感じてあげることだと思う。



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