氷の王子はクラスでぼっちな私の抱き枕になりたいらしい~クールな御曹司の溺愛が熱くて甘くて困惑中~
第3話 興味ないって言ってたけど……?


〇苺ノ花学園高等部2年A組の教室(月曜日の昼休み)



——ストーカー男から助けてもらったのがきっかけで、ハイスペクラスメイトの氷劉くんの家で同居する事に。



氷の王子と呼ばれるほど学校ではクールな氷劉くんだけど、家では意外な一面を見せてきた。



〇(回想)夜の出来事

怜「可愛いね、妃芽さん」

初めて見た怜の微笑み。



怜「妃芽さんの指、咥えていい?」

宝の人差し指を、パク、と咥えている怜。

矢印で(そのまま赤ちゃんみたいに寝てしまった氷劉くん)の説明

(回想終了)




でも学校では席が離れている(あいうえお順でちょうど一番前と一番うしろに席が分かれている描写)からぼっちな私と人気者の氷劉くんが話す事は無い——



(……と、思っていたのに)



窓際で一番うしろの席に座る氷劉 怜(ひりゅう れい)とその隣の席に座っている妃芽 宝(ひめ たから)。

怜はクールな表情だが、宝は変な緊張の汗を流している。



宝(まさか席替えのくじ引きで、氷劉くんの隣の席を当ててしまうなんて……)







姫華「ねぇねぇ、妃芽さん」

宝「ぇ、な、なに、孔雀院さん」



宝(クラスの女子から初めて話しかけられた……)



宝の席に来て話しかけてきたのは、宝のふたつ前の席になった孔雀院 姫華(くじゃくいん ひめか)。

姫華は化粧が上手で華やかな見た目、髪はゆるふわロングで制服のスカートは短いクラスの男子から一番人気の女の子。



姫華「あのさ私と席、替わってくれないかな。私、一番うしろが好きなの」

宝「ぁ、そうなんだ……」



宝(ぼっちの私にわざわざ話しかけてくれたし替わろうかな。ふたつ前の席になるだけだし……)



宝「いい——」

怜「くじで決まったんだから、そのままの方がいいと思うよ」

宝「ょ……」



いいよ、と了承しようとした宝の声は、無表情で話す怜の声でかき消されてしまった。



姫華「氷劉くんがそう言うならこのままにする~」



キャピ、と音が聞こえそうな女の子らしい可愛い笑顔で姫華が微笑む。



姫華「ねぇねぇ氷劉くんって誕生日4月2日だよね。占ってあげる」



口元を本で隠すような感じで『誕生日で占うあなたの運勢』と表紙に書かれた本を持ち、小首を傾げながら可愛く提案する姫華。



宝(誕生日もう過ぎてるんだ……。これからだったら助けてくれたお礼とか渡せたのに)



怜「占いとか興味ない」



宝(今クラスで占いが流行ってるみたいだけど、氷劉くんは興味ないんだ)



姫華「そっかぁ、ざんねん」



他のクラスメイトから、姫華ー、と名前を呼ばれた姫華。



姫華「ぁ、手相? 私のもみてほしー」



手に持っていた本をポンと宝の机に置いて、姫華は行ってしまう。

その本を、ひょいッと怜が手にしてパラパラ捲り始めた。



怜「妃芽さんの誕生日って、いつ?」



宝(興味ないって言ったけど占ってくれるのかな)



宝「5月5日のこどもの日だよ」

怜「祝日なんだ。今週からゴールデンウィークだからもうすぐだね」

宝「そうだね。ぁ、私ってどんな感じかな?」



占いの結果を知りたくて怜が手に持っている本を、宝が指で示す。



怜「優しくて可愛い人。お人好しな一面があるから強引に迫られても流されないように気をつけて」



宝(氷劉くんそれって……占い、だよ、ね……?)



怜がクールな表情のため、宝には真意が分からない。

そんなふたりの所に一郎がやってきた。



一郎「怜の前の席になるなんて初めてだな。ぁ、妃芽さん席近いね、よろしく」

宝「うん、よろしく」



一郎の優しげな笑顔に、安心したような笑みを見せる宝。

そんなふたりの様子をチラと怜が見ている。

怜が持っている本に、一郎が気が付いた。



一郎「ぇ、なに怜、占いの本なんて読んでんの、珍しい」

怜「そこに置いてあったから見ただけ」

一郎「占いとか怜、興味無さそうだもんな。ぁ、妃芽さん、僕けっこう手相がわかるようになってきたんだ、みてあげるよ」



一郎がスッと手を差し出してきたので、宝も手を差し出そうとする。



宝「ぁ、ありが——」

怜「イチ、俺の手相みてよ」

宝「と?」



宝の手が一郎の手に触れる前に、一郎の手を宝の前からはらう感じで怜が一郎の手をとった。



一郎「いいよ。ぅわ、怜って手相でも完璧じゃん。覇王線があるよ」



その声を聞いて姫華が再び戻ってきた。



姫華「ぇ、なになに、氷劉くんの手相みてるの? 言ってくれれば私がみたのにぃ」

怜「それなら妃芽さんのみてあげて」

姫華「ぇー、まぁいいけどぉ」

宝「ぁ、ありがとう……」



宝(ぅわぁ私いま、クラスメイトと交流してる)



心の中で感動しながら手を差し出す宝。

宝の手を触った姫華が、ぷ、と小さく吹き出して笑う。



姫華「やだぁ、妃芽さんの手ぇガサガサ。女の子なんだからもう少し肌とか気をつかった方がいいよぉ」

宝「ぁ……」



宝(家事って水仕事が多いから……)



キラキラ輝いているような姫華との差を感じ、羞恥心に襲われた宝の顔がカーッと赤くなる。



姫華「このハンドクリーム貸してあげようか? すっごく肌スベスベになるよ」



制服のポケットから可愛くて高級感もあるハンドクリームを出して頬のそばで持ち、可愛らしい笑みをみせる姫華。

その声が聞こえたのか、他のクラスメイトがやってくる。



女生徒1「ぁ、姫華のハンドクリームかわいー」

姫華「これねぇ、セットでリップもあるんだよぉ」

女生徒2「ネットで買える?」

姫華「ネットでは買えなくて、店舗限定なのぉ。今度一緒に買いに行く?」

女生徒2「いいね。ぁ、麗羅も誘おうよ」



麗羅ー、と言いながら姫華は他の女生徒と一緒に行ってしまった。

残された宝は、少し切ない表情で手荒れを気にする様に手の甲を触っている。

そんな宝の姿を心配そうに怜と一郎が気にしていた。





〇学校からの帰り道



前を歩く宝と、少し距離をあけてうしろを歩く怜。

ふたりともスマホで話しながら歩いている。



宝「わざわざ保育園まで送ってくれなくても大丈夫だよ」

怜「あのストーカー男が接触してくるかもしれないだろ」

宝「でもそのために、私にスマホまで用意してくれるなんて」

怜「本当は隣を歩いた方が安全だけど、それは嫌だって妃芽さんが言ったから」



宝(そりゃそうだ。私なんかが氷劉くんの隣にいたら、みんながざわついてしまうもの)



怜「……妃芽さん、このまま買い物へ行ってひとつだけ何か買えるとしたら何を買いたい?」

宝「ぁー、できれば匠のお迎え前にスーパーで卵を買いたいけど、保育園のルールでお迎え前に買い物しちゃダメなんだよね……」

怜「……食料品以外なら何が欲しい?」

宝「んー、匠の服がサイズアウトしそうだから欲しいなぁ。ぁ、でも5月末に小学校の運動会があるから、それに備えてそろそろ尊の靴も欲しい」



そうだ匠の長靴も買わないと……、と宝がひとりでスマホに呟いている。



怜「そうじゃなくて。いま自分の物を買いに行く時間があったら、どうするってこと」

宝「自分の物を買いに行く時間……?」

怜「そう」



そんな事考えたこともなかったという感じの表情をした宝は、んー、と悩んでしまう。



宝「その時間があったら、図書館に行きたいかな……」

怜「図書館?」

宝「うん。図書館っていろんな雑誌の最新刊を置いてあって館内で閲覧ができるの」

怜「図書館くらい、いつでも行けばよくない?」



宝は少し悲しそうな表情で笑う。



宝「絵本コーナーなら匠も待っててくれるけど、児童フロア以外だと飽きちゃうからね」

怜「ぁ……」



椅子に座って雑誌を読んでいる宝の服をつかんで本棚と違う方向を指差し「かえるー」と言っている匠の姿が、宝と怜の頭に浮かぶ。

そのあとすぐに『のいちご保育園』と書かれた門の所へ宝が着いた。

怜は少し離れた所に立っている。



宝「それじゃ、匠のお迎えに行ってくるね」

怜「ああ、ここで待ってる」



電話を切った怜は、そのままスマホを操作して電話帳を表示する。

画面には『氷劉松市』の文字。

そのまま怜は電話をかけた。



怜「ぁ、怜だけど。あのさ、5月5日って……」





〇怜の家のリビング(夕食後)



カーテンを少し開けてパジャマ姿の宝が外を眺めている。



宝「遠くで雷が光ってるね。そのうちこっちでも雨が降るかなぁ」

尊「宝ねぇ、カーテン閉めてよ!」

匠「ちめてぉ」



三人掛けのソファでぴったり寄り添って座り、抱きしめ合ってブルブル震えているパジャマ姿の尊と匠。



宝「ごめんごめん、ふたりは雷が苦手だもんね」

尊「宝ねぇ、寝る時ギュッてして」

匠「ぎゅってちて」

宝「はいはい。それじゃ、こっちで鳴り始める前に寝ちゃお」

尊「うん、怜にぃはまだ寝ないの?」

匠「ねにゃぁの?」



一人掛けのソファに座ってスマホを操作していた怜が尊の方へ視線を向ける。

ほんの少しだけ、顔色が悪い。



怜「風呂入ってから寝るから、先に寝てていいよ」

尊「わかった、怜にぃおやすみー」

匠「れぇにぃおやすみぃ」

怜「おやすみ」



カーテンを閉めソファのそばを通ろうとした宝が足を止める。



宝「……もしかして氷劉くん、具合い悪い?」

怜「ぇ……」



心配そうに眉を寄せ怜の顔を見つめている宝。

驚いたように目を見開いている怜。

でもすぐにいつものクールな表情に戻った。



怜「よく眠れない日が多いから、そのせいだと思う。体調は悪くないから気にしなくていい」



宝(昨日は私の指を咥えたまま寝ちゃったけど、夜中に目が覚めたりしたのかな)



匠「たぁねぇ、といれぇ」



リビングのドアの所で匠が足をモジモジさせている。



宝「わぁ、いま行くから待って」

怜「おやすみ」

宝「おやすみなさい……」



リビングでひとりになった怜は、ふぅ、と小さくため息をついた。



怜(昨日はよく眠れたけど、今夜はきっと眠れないだろうな……)





〇怜の家の寝室(夜中)



ふと目が覚めて、ベッドで上半身を起こした宝。

尊と匠は爆睡している。

外で雷鳴が激しく轟いているのが、室内にいても分かった。



宝(凄い雷……)



目が慣れてきて室内がぼんやり見えるようになってきた宝は、怜がいない事に気付く。



宝(氷劉くん、まだ起きてるのかな……)



枕元の時計は2時20分を表示していた。





〇怜の家のリビング(夜中)



リビングの扉の前に立つ宝。



宝(明かりがついてる……)



ガチャ、とドアを開けてリビングへ入ると、三人掛けのソファに座っているパジャマ姿の怜が大きな画面のテレビで英語のニュースを見ていた。

室内に入ってきた宝の方へ視線を向けた後、怜がリモコンでテレビを消す。



怜「ごめん、うるさかったかな」

宝「それは大丈夫だけど、氷劉くん、眠れないの?」



宝がそう声をかけた直後、バリバリバリッ、と激しい雷鳴が轟いた。



怜「ぅわッ……」



カタン、と怜が持っていたリモコンがローテーブルにぶつかったあとで床へ落ちた。

リモコンを拾おうと怜が身体をかがめた瞬間、再び雷の音がして怜の肩がビクリと揺れる。

その間に室内へ入ってきた宝が、怜の代わりにリモコンを拾ってローテーブルへ置いた。



宝「氷劉くん、雷が苦手?」



肘を膝に置いてソファに座っている怜は、片手で額を押さえて俯き大きなため息をついた。



怜「小さなころ夜中に近所で落雷があってから、夜の雷が苦手で……」

宝「そうなんだ……」

怜「妃芽さんには格好悪い所ばかり見せてるな、俺。なんかへこむ……」



宝(あれ? 氷劉くんが可愛い……?)



落ち込んでいる怜の姿が、宝にはショボンと耳を垂れてクゥーンと鳴いている犬の姿に見えた。

思わずソファに座り手を伸ばして、怜の頭を撫でてしまう宝。

驚いたように怜が顔を上げたので、パッと宝は手を離した。



宝「ぁ、ごめんね、つい……」



ジッと怜に見つめられ、宝の胸がドキッと跳ねる。



怜「好きだから、いいよ」

宝「ぇ……?」

怜「妃芽さんに頭撫でられるの、なんか安心するから好き」



宝(あーびっくりした! 好きって、頭を撫でられる事かぁ……)



怜「もっとして欲しい……」



撫でて、という感じでぽすッと怜が宝の肩に頭をのせた。



宝(なんか大型犬に懐かれた気分)



肩に置かれた怜の頭を、よしよしする感じで撫でる宝。



宝(ぁ、でもこれは大型犬っていうよりも……)



宝「ふふ、匠みたい」

怜「匠みたい? なんで?」

宝「だって氷劉くん、甘えん坊だから」

怜「二歳児と同じ扱いかよ……」



宝(ぁ、氷劉くんでも拗ねたりするんだ。なんか可愛い)



拗ねたような子どもっぽい怜の様子に、思わずクスクス笑ってしまう宝。

そんな宝の耳元で、息を吹き込むように怜が囁いた。



怜「子ども扱いするなら俺、今夜も妃芽さんの指をしゃぶりながら寝たい」



怜(不思議と昨日は、それでよく眠れたから)



指を怜に咥えられたシーンが頭に蘇り、ボンッと宝の顔が赤くなる。



宝「ゆ、指は、ダメ」

怜「指はダメ? じゃ、耳にする」

宝「ぇ……ぇ、ひりゅッ、く、ん!?」



怜のすぐ目の前にある宝の耳が、美味しそうに赤く染まっている。



怜(耳まで真っ赤、可愛すぎ)



宝の耳を甘噛みした怜が、ちぅ、と吸いついた。

そのまま怜の体重が、ぐぐぐ……と少しずつ宝にかかっていき、怜が覆い被さる感じでゆっくりと背中から宝の身体がソファへと沈んでいく。

外では嵐を予感させるように、雷の音が響いていた。





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