氷の王子はクラスでぼっちな私の抱き枕になりたいらしい~クールな御曹司の溺愛が熱くて甘くて困惑中~
第4話 プレゼント?
〇怜の家の玄関(朝)
心配そうに眉を寄せている宝。
宝「ほ、本当にいいの氷劉くん?」
怜「いいよ。子ども用品の展示会でいろんな意見が必要らしい。玩具も扱っているから尊と匠も楽しめるだろうし一緒に連れていく」
靴を履いて玄関に立っている怜と尊と匠。
その三人を見送る感じでスリッパを履いている宝が玄関に立っている。
宝「だけど氷劉くんのお爺様が名誉会長を務めている企業のイベントでしょう? 迷惑なんじゃ……」
怜「祖父がぜひにと言っていたから構わないよ。いざとなったら会場内に保育スペースもあるし、保育士が常駐してるから大丈夫」
宝「何か困った事があったらすぐに連絡してね、迎えに行くから。尊、匠、ちゃんと言うこと聞いてね。騒いだりしちゃダメだよ」
ぷぅ、と頬を膨らませた尊の顔を、手をつないでいる匠が見上げている。
尊「わかってるよぉ」
尊を見ていた匠が、マネをして頬を膨らませた。
匠「わらってるお」
そんな尊と匠を見て珍しく穏やかな笑みを浮かべた怜が、匠の頭を撫でている。
怜の優しい表情を見た宝の胸が、キュンとときめいた。
怜「夕食も何か適当に買って帰るよ、それじゃ、いってきます」
尊「宝ねぇ、いってきまーす」
匠「たぁねぇいってきまぁす」
クールな表情に戻った怜の隣で、尊と匠が宝に笑顔で手を振った。
〇怜の家のリビング
ウィンウィン……と動いているロボット掃除機から少し離れた所で、宝がローテーブルを拭いている。
——ストーカー男から助けてもらったのがきっかけで、ハイスペクラスメイトの氷劉くんの家で同居中。
氷の王子と呼ばれるほど学校ではクールな氷劉くんだけど、実は、絶叫系の乗り物と夜の雷が苦手で甘えん坊という一面がある。
ローテーブルを拭いていた宝が手を止めて、チラと目の前のソファを見た。
宝(雷の夜の時は、もの凄く甘えてくるからドキドキしちゃったよ……)
〇(回想)雷の日の夜の記憶(第三話ラストの続き)
ソファに横たわる宝へ怜が覆い被さる感じの体勢で、宝の耳を怜が甘噛みしている。
宝「み、耳……ッ」
ギュッと宝が目を瞑っていると、今までで一番大きな音を立てて雷が落ちた。
その瞬間、宝に覆い被さっていた怜の身体がビクッと揺れる。
そんな怜の様子に、宝は少し冷静になり目を開けた。
宝(氷劉くん、そんなに雷が怖いんだ……)
宝「やっぱり匠みたい」
怜「匠みたいって、どうして?」
ソファドン状態で顔を上げた怜と目が合い、宝の胸がドキッと跳ねる。
宝「た、匠もね、本を読んであげてて私の指を咥えられないと肘をしゃぶったりして、安心するためにどこでもいいから口に入れようとするの」
きまりが悪そうに怜は自分の首のうしろを手で擦りながら身体を起こした。
怜「安心するためっていうのは違う気がする。俺、妃芽さん以外にこんな事したことないから」
宝「私が弟ふたりいてオカン気質だから、氷劉くんも甘えたくなるのかもしれないね」
怜「オカン気質……」
へへ、と宝が自嘲気味に苦笑いした。
そうじゃないんだけどな……、と小さく怜が呟いたけれど、宝には聞こえていない。
宝「周りに人がたくさんいれば雷も気にならないと思うよ、尊と匠のところに行こ?」
怜「……わかった」
寝室へ移動し、ベッドの上で座っている怜と宝。
尊と匠は、少し端の方でくっついて寝ている。
宝「リビングにひとりでいるよりはきっと怖くないよね」
怜「ああ」
宝「それじゃ氷劉くん、おやすみなさい」
そう告げた宝のパジャマの袖を、怜がツンと掴んだ。
宝「氷劉くん?」
怜「……保健室の時と同じ感じで、俺のことギュッとしてほしい」
宝(ギュッとしてほしいって、甘え方が尊と匠みたい)
宝の頭に「宝ねぇ、寝る時ギュッてして」と言う尊と「ぎゅってちて」と言い雷を怖がる匠の姿が浮かぶ。
怜「妃芽さん……ダメかな……?」
不安そうな表情の怜の事が、宝にはショボンと耳を垂れてクゥーンと鳴いている犬の姿に見えてきた。
宝(普段クールだから、氷劉くんが甘えてくるとギャップで愛おしく見えちゃうんだよね……ぅぅ、可愛いよぅ……)
胸のあたりにあるハート形の『母性本能』がムズムズしている錯覚に陥る宝。
宝(抱きしめるなんて恥ずかしいけど……えぇい、ままよ)
勢いよく怜を抱きしめる宝。
宝が怜の身体を横へ倒すような感じになり、向かい合うかたちの横寝でベッドに寝そべる。
宝「こ、これでいい?」
怜「うん、ほんと安心する。このまま俺、妃芽さんの抱き枕になりたい……」
宝(……氷劉くんが抱き枕だったら、ドキドキしちゃって眠れないってば)
(回想終了)
〇怜の家のリビング(回想前に戻る)
宝(抱きしめてたら、氷劉くんはあの後すぐに寝ちゃったっけ)
ふぅ、と小さくため息をつく宝。
宝(ドキドキしてるのは、私だけなんだよなぁ……)
——こんな事をしているけど、私たちはただのクラスメイトで恋人同士とかではない。
その証拠に、今日5月5日は私の誕生日だけど一緒におでかけなんてしないし氷劉くんとは別行動。
シンプルで物が少ないリビングを見回す宝。
宝(氷劉くんの家、元々きれいだから掃除もすぐに終わっちゃう……図書館にでも行ってみようかな)
〇図書館(昼間)
表紙が見える感じで置かれている雑誌コーナーをのんびり眺めている宝。
周囲の椅子では大人の人が座って本や雑誌を読んでいる。
宝(児童フロア以外に来たの久しぶり……)
『節約アイディア特集』と書かれた雑誌を手にとった宝。
宝(落ち着いて本が読める時間って貴重だなぁ。ぁ、そういえば氷劉くんと図書館の話をしたっけ……)
〇回想(三話の下校時、スマホで話しながら帰る宝と怜)
宝「その時間があったら、図書館に行きたいかな……」
怜「図書館?」
(回想終了)
宝(もしかして氷劉くん、私にひとり時間をプレゼントしてくれた……?)
ふと宝は、『男子中高生が喜ぶレシピ』が特集されている隣の雑誌が気になった。
宝(先にこっちを読んでみよう)
『男子中高生が喜ぶレシピ』の雑誌を手にして宝は椅子に座る。
〇展示会場(昼間)
様々な子ども向け用品のブースがある広い会場。
尊と匠は、ミニチュアの車両が動いているリアルな鉄道模型のレイアウトを熱心に見つめていた。
そのふたりの後ろ姿を、高齢の男性(一話で登場した松市と同一人物)が愛おしそうに目を細めて眺めている。
松市の隣では、怜が少し申し訳なさそうな表情をしていた。
松市「楽しんでもらえているようだな」
怜「急に招待券を手配してほしいなんて無理言ってごめん。この前も早朝から新聞販売店の件で迷惑をかけたばかりなのに」
松市「今まで甘えてこなかった孫が、ようやくわがままを言ってくれるようになったんだ。嬉しいくらいだよ」
松市が怜のことをジッと見つめた。
松市「だがなぜ、尊君と匠君のために招待券を用意しようなんて思ったんだ?」
怜「恩返し……かな」
松市「ほぅ、恩返しか」
「れいちゃん、取り返してきたよ」と笑顔でゲーム機を差し出す五歳くらいの宝(第一話の写真と同じくショートカットで男の子みたいな見た目)の姿が怜の頭に浮かぶ。
怜「小さな頃、尊と匠のお姉さんに助けてもらったから」
松市「今度ゆっくり聞かせてほしいものだな。気が向いたら家に帰っておいで」
優しい表情を向ける松市に対して、怜は少し困ったような表情になった。
怜(今はまだ、父さんに会いたくない)
〇黒塗り高級車の車内(帰り道)
後部座席で匠を真ん中に怜と尊と匠が座っている。
運転席に座っているのは、第一話で松市を迎えに来たスーツ姿の男性。
運転手「怜様のご自宅までお送りするよう氷劉会長から言われていますが、このまま向かってもよろしいでしょうか」
怜「何か所か寄ってもらいたい所があります。予約していた品を受け取りたいので」
運転手「承知いたしました」
まず最初に寄ったのは、ボディケア用品を扱うショップ。
オシャレな小さな瓶や可愛らしいコスメの容器がたくさん並んでいる。
綺麗な紙袋を美人の店員から受け取っている怜。
運転手と共に車内に残り、寄り添って寝ている尊と匠。
次に寄ったのは洋菓子店。
こちらでよろしいですか、と店員に確認されている怜。
店員が確認のために差し出したのは、花の形に絞られたクリームとたくさんの苺が豪華で可愛らしいホールケーキ。
『HappyBirthday Takara』のチョコプレートが上にのっている。
車内に戻ると尊が起きたので、怜が声をかけた。
怜「このあと夕食に何か買って帰るけど、食べたいものある?」
尊「ある、食パンと苺ジャムと生クリーム。絞るだけで出てくるやつ」
怜「夕食だよ?」
尊「宝ねぇが誕生日だからデザートにケーキ作るんだ」
怜「ケーキ……そっか……」
尊が起きる前に怜が洋菓子店で受け取ったケーキの箱を車載冷蔵庫へ入れた運転手は、その会話を聞いて心配そうな表情をしている。
〇怜の家のリビング(午後)
ローテーブルの上に、食パンと苺ジャム、絞るだけですぐに使える生クリームが置いてある。
カッティングボードの上にパンをのせ、尊がナイフでパンを切っていた。
匠が危なくないように、怜が膝の上で抱っこしながら見守っている。
尊「あとで取り分けしやすいように、最初にパンを何枚か重ねて四つに切っておくのがコツだぞ」
そう言いながら、食パンの耳を切り離したあと白い部分を十字に切っていく尊。
尊「俺の誕生日に宝ねぇが作ってくれたんだ。これなら匠も一緒に食べられるから」
怜に手伝ってもらいながら匠がパンにジャムを塗る。
ジャムを塗ったパンを重ねたあとで、尊がその上に生クリームで飾りつけた。
尊「できた!」
匠「れきた」
匠はまだ生クリームをあまり口にしないため、四分の一はクリームをつけずに一番上にも苺ジャムを塗ってある。
尊「なんか、ケーキっぽくないな」
匠「ないな」
尊「ぁ、わかった。誕生日おめでとうのチョコがないからだ……」
落ち込む尊を見て、怜はキッチンへ向かった。
冷蔵庫へしまっておいたホールケーキから『HappyBirthday Takara』のチョコプレートだけ外してリビングへ戻る。
怜「これでどうかな。英語で誕生日おめでとうって書いてあるよ」
『HappyBirthday Takara』のチョコプレートがのった食パンケーキを見て尊と匠が、ほぉぉぉぉ……、と目を輝かせて感動している。
尊「すげー、めっちゃケーキだ」
匠「めったけぇきら」
三人でケーキを眺めていると来客を告げるベルが鳴った。
〇怜の家の玄関(午後)
玄関で向かい合って立っている怜と一郎。
一郎が玄関のドアを背にして立ち、怜はスリッパを履いて廊下の方に立っている。
一郎「電話した時に弟くんたちも一緒にいるって言ってたから、当然妃芽さんも家にいるのかと思った」
怜「妃芽さんは図書館にいると思う、少し前に連絡があった」
スッと一郎が紙袋を差し出した。
その袋の柄は、怜が寄ったボディケア用品店で受け取ったのと同じもの。
一郎「あとでこれ妃芽さんに渡しといて、誕生日プレゼント。何がいいか分からなくて、前に孔雀院さんがおすすめしてたハンドクリームとリップなんだけどさ」
怜「わかった、帰ったら渡す」
ほんの少しだけ怜の瞳に影が差す。
怜(イチとプレゼントがかぶった……)
一郎から怜は紙袋を受け取った。
怜(俺のは渡せないよな……)
一郎「怜……どうした?」
一郎から声をかけられて、ハッとした表情になる怜。
怜「なんでもなぃ……いや、ちょっと待ってて」
一郎を玄関に待たせたまま怜はキッチンへ行き、冷蔵庫からケーキの箱を取り出し持ってきた。
怜「よかったらこれ、イチの家で食べてもらえないかな。ケーキなんだけど」
一郎「ぇ、ここって予約が取れなくて有名な店のじゃん、姉ちゃんたちが一度でいいから食べたいって言ってた」
一郎がケーキの箱を見て驚いている。
怜「ぁ、でもプレートだけもらってるから少し形が崩れてるかも。それでもよければ、だけど」
一郎「プレート……、そっか、妃芽さんの誕生日だからか。それならなおさら、僕がもらっちゃっていいの?」
怜「妃芽さんの弟が今、ケーキを作ってるから」
顔を怜の方へ向け、珍しい物でも見つけたような感じで目を見開いている一郎。
一郎「怜がわざわざケーキ用意して、でも弟くんのために無かった事にするんだ」
怜「俺からケーキを貰ったって、妃芽さんには言わないでほしい」
一郎「言わないよ。僕は怜みたいに優しくないからね。恋愛で自分が不利になるような事はしない」
怜に渡した紙袋を一郎が指差した。
一郎「そのリップ、少しずつ取り戻すつもりだから」
怜「取り戻す……?」
一郎「妃芽さんにキスしたら返してもらえるだろ?」
ニコ、と一郎が笑みを見せる。
僅かに怜が目を見開いた。
〇怜の家のリビング(夕食後)
電車のイラストがのっているお揃いのTシャツを着た尊と匠が、リビングではしゃいでいる。
尊は新しいスニーカーを、匠は新しい長靴を履いていた。
宝「家の中で靴を履いて歩いちゃダメでしょ」
怜「まだ外で履いてないし、構わないよ」
クールな表情の怜に対して、宝は慌てた顔。
宝「しかも氷劉くんのお爺様が服も靴も買ってくれたなんて、申し訳ないよ……」
怜「今日来てくれたお礼だって祖父が言ってたから、妃芽さんは気にしないで」
宝「で、でも……」
気にし過ぎる宝の言葉を遮るように、スッと怜が紙袋を差し出した。
怜「これ、誕生日プレゼント」
宝(ぇ、もしかして氷劉くんから……?)
怜「イチから預かった。妃芽さんに渡してって」
宝「ぁ、山田くんから、そっか。週明けに会ったらお礼を言わないと」
包みを開けて中身を確認する宝。
宝「わぁ、孔雀院さんが持ってたのと同じハンドクリームだ、リップもある」
宝(確か店舗限定って言ってたけど、わざわざ買いに行ってくれたのかな山田くん)
すごいなぁ嬉しい、と箱の中を眺めながら喜ぶ宝の姿を、怜は切なさを帯びた複雑な表情で眺めている。
尊「宝ねぇ、俺と匠からもプレゼントあるぞ」
匠「あるぞぉ」
宝「ぅわぁ、ありがとう」
尊と匠はそれぞれ自分で描いた絵を持っている。
尊が描いた絵には、男の子っぽい人物が三人と女の子っぽい人物がひとり、背景にジェットコースターらしきものが描かれていた。
匠の絵はぐるぐるした丸が四つ、なんとなく顔らしい感じ。
ふたりは絵を指差しながら、これが宝ねぇで怜にぃで匠で……これたぁねぇれぇにぃたぁにぃ……と説明している。
怜「俺もいるんだ……」
宝と一緒に絵を眺めていた怜が、ふ、と優しい笑顔を見せた。
宝(ぁ、笑った!)
貴重な瞬間を見た宝は心の中で感動している。
宝(その笑顔は、氷劉くんからの最高の誕生日プレゼントだよ……っ)
尊「そしてなんとぉ、ケーキもあるぞぉ!」
匠「あるぞお」
ジャジャーン、と尊がケーキを出してきた。
食パンに生クリームを塗ったケーキ。
匠用に用意した四分の一はジャムを塗っただけだから、一目で食パンだと分かる。
尊「俺と匠で作ったんだ、ぁ、この誕生日おめでとうのチョコは怜にぃがくれたんだけど」
宝(尊と匠が食パンでケーキを作ってくれて、プレートは氷劉くんが用意してくれたんだ……)
宝「本当に、ありがとう。嬉しい……」
お皿用意してくるね、と言い指で目尻の涙を拭いながら宝はキッチンへ向かった。
〇怜の家の寝室(夜)
豪快な寝相で寝ている尊と匠。
その二人をベッドに座った怜と宝が眺めている。
宝「楽しかったんだろうなぁ、よく寝てる」
嬉しそうに微笑む宝を見て、怜の表情が穏やかになった。
けれど次の瞬間、ふと怜は何かに気付く。
そして宝の首元へ鼻を寄せると、スン、と匂いを嗅いだ。
宝「な、何、氷劉くんッ?」
驚いた宝が顔を真っ赤にして目をギュッと瞑っている。
怜「妃芽さんから、甘い匂いがする」
宝「甘い? ぁ、山田くんからもらったリップをつけてるからかな。蜂蜜の香りがするみたい」
怜は宝の首元から顔を上げると、宝の顔をジッと見つめた。
怜「なんか、嫌だ」
宝「嫌? 氷劉くんは蜂蜜が嫌い?」
怜「嫌いじゃない、でも嫌だ……」
怜(ぁぁ、そうかこれ、ヤキモチか……)
怜「好きだよ」
宝「ぇ……好きって……、ぁ、蜂蜜の事ね」
怜「……妃芽さんの事が好きだ」
真剣な表情の怜に対して、目を見開いている宝。
怜「もちろん尊と匠の事も、大切に思ってる」
宝(わ、びっくりしたぁ。好きって、尊と匠へ向ける好きと同じかぁ)
納得したように、スン、と普段の表情に戻った宝。
真剣な顔をしていた怜は、一転して心配そうな表情になっている。
怜「……妃芽さんは……、俺の事、好き……?」
宝(弟の事も大切に思ってくれている氷劉くんは、私にとっても家族みたいに大事な人だから……)
怜に対して、家族の愛情を示すような笑みを向ける宝。
宝「大好きだよ」
怜「よかった、それなら……」
ふ、と嬉しそうなのに嬉しすぎて泣いているようにも見える笑みを怜が浮かべた。
宝(ぁ、また笑ってくれた?)
でもその表情はすぐに消え、獰猛な獣のように怜の目力が強くなる。
怜「……そのリップ、俺に奪わせて」
宝「ぇ」
怜は宝の頬を両手で包むと目を閉じながら唇を重ね、ほんの少しだけ離してから角度を変えて再び唇を重ねた。
宝(キスされてる!?)
驚きすぎて目を大きく見開いた宝だが、少し遅れてゆっくりと開いた熱っぽい怜の瞳に見つめられ思わずギュッと目を瞑る。
少し距離をとろうと怜の胸板を押すけれど、いつの間にか後頭部を怜の手でグッと支えられていて逃れる事はできなかった。