カサブランカで会いましょう。
「お風呂 どうする?」 「ああ、のぼせるまで先に入ってていいよ。」
「んもう、、、これだからなあ。」 「何だよ?」
「たまにはさあ、一緒に入ろうとか背中を洗ってやるとか無いの?」 「昔、たくさんやったからいいだろう?」
「愛してないのねえ? 吉田さんにでも可愛がってもらおうかなあ?」 「いいんじゃないのか? あいつは変態デブが大好きだから。」
「変態デブ? 誰だろうなあ?」 「お前だよ。 お、ま、え。」
チーズの仕込みをしながら俺は清美を虐めている。 「いいいんだもーーーーん。 可愛がってもらうんだもーーーーーん。」
不貞腐れた清美はタオルを持って浴室へ入っていった。
誰も居なくなった店で一人、チーズと睨めっこをする。 長年やってきたけど、こいつはいつも黙っている。
そのくせ、機嫌が悪いと水っぽくなったり変な味がしたりするからおっかない。
そんなのは客に出せないからまたまたやり直し。 一晩掛かって苦闘することだってよく有る話。
「あの人、美味そうに食ってたなあ。」 「誰がよ?」
「わ、いつの間に?」 「そりゃあ、30分もすればいくら私でも上がるわよ。」
「そっか。 もう30分も経ったのか。」 渋々、一人で浴室に入る 俺、、、。
溜息を吐きながら体を洗っているとガラガラってサッシが開いた。 「体冷えちゃったからまた来た。」
「へえ、ほんとは俺の裸を見ようと思って来たんだろ?」 「誰がそんな品の無い裸を見るかってよ。」
「言ったなあ、、、。」 そう言って洗面器のお湯を清美にぶっかける。
「やったわね? やり返しちゃうんだから。」 清美も洗面器を持って応戦する。
いつもの夫婦のいつもの喧嘩である。 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけれど、、、。
バチャバチャとお湯を掛け合っておいて、気付いたら浴槽の中でくっ付いて仲良く話してるんだからなあ、、、変な夫婦だよ。
「李多ちゃん、喜んでたわよ。」 「何が?」
「今日のチーズケーキ、特別美味しかったって。」 「そうか。」
「んもう、感動しない人なのねえ。」 「いちいち感動してたら身が持たないよ。」
「そうだろうけど、たまには喜んでやったらどうなのよ? タコ。」 「うわ、負けたからってタコ呼ばわりしおったわ。」
「あんたの顔はタコじゃないよ。 タコ。」 「へへへへへへ、タコかいな?」
「もういいわ。 呆れすぎて何も言えないわ。」 「へえ、25年も飽きずにくっ付いておいてか?」
「長すぎたわよねえ。」 「どうぞ、吉田さんにでも嫁いでくださいな。」
「負け惜しみ?」 「ぜーんぜん。」
喧嘩してもこの二人はなかなか離れないのである。 居心地がいいのか悪いのか?
月曜日は休みなんだ。 それでね、昼まで俺はゴロゴロと寝てるわけ。
清美はというと「今日はあそこに行ってくるからお昼は無しね。」なんて言って出掛けてしまう。 「勝手にどうぞ。」
「あーら、不倫でもしちゃおうかなあ?」 「たぶん無理だと思うけど。」
「何でよ?」 「だって清美には俺が居るから。」
「んもう、こんな時だけ旦那気取りなのね?」 「いいじゃん。 お前からくっ付いてきたんだから。」
「はいはい。 そうでしたねえ。」 口を尖らせた清美は財布を持って出て行った。
後は俺の天下だ。 布団の中でゴロゴロしながらいろんなことを考える。
新作のケーキを作ることももちろん考えてるよ。 アーモンドスライスを使ったやつとかね。
月曜日、みんなが働いている時に休むってのはなんか気分がいいもんだ。 殿様になった気分だねえ。
休日には電話すら掛かってこない。 たまに予約してくる人は居るけど、、、。
たまにねえ、「ホットケーキは焼かないのか?」って聞いてくるやつが居る。 「焼いてほしいか?」って聞いたら「焼けないならいいよ。」って返してきた。
頭に来たから鉄板を買ってきてコンロの横に置いておいた。 「マスター、この鉄板は何に使うの?」
「ああ、これね。 ホットケーキを焼いてくれってやつが居たからさあ、頭に来て買っておいたんだ。」 「ホットケーキ?」
「そう。 ケーキ屋なのにさあ、喫茶店だって思ってるやつが居たんだよ。」 「喫茶店か、、、。 悪くはないんじゃないの?」
「でもさあ、そこまでやっちゃうとケーキが中途半端になるよ。」 「俺もそう思って喫茶店にはしないんです。」
「あんなやつも居たよなあ。」 いろんな客を思い出してみる。
大学を卒業して町を出て行った人も居る。 定年退職で教師を辞めた人も居る。
高校を卒業してこの町で働き始めた人も居る。 結婚した人も居れば別れた人も居る。
人の人生だ。 何が起きるか分からない。
昼になり、腹も減った俺は冬眠から覚めた熊みたいにモソモソと台所へやってきた。
飯を盛り、霊倉庫から生卵を取り出すと毎度お馴染みのtkgの出来上がり。
だれがtkgなんて言い始めたんだろうねえ? かっこ良くも何ともないじゃないか。
日本人だったらねえ、卵かけご飯って言うんだ。 しょうがねえ連中だぜ。
省略すればいいって思ってんだからなあ。 ご先祖様が泣くぞ。
腹を満たすと散歩に出掛ける。 隣のラーメン屋は営業中だ。
営業中ってことはご自慢のスープが作れたってことだな。 その隣はカメラ屋だった空き店舗。
その隣は八百屋だったな。 この辺りも随分と寂れちまったんだなあ。
たまに変なおっさんが真っ赤な顔で歩いていく。 昼間から酔っ払ってるらしい。
こんなやつには絡まないことだ。 絡んでろくなことは無い。
ブラブラと歩きながら公園にやってきた。 昼間から遊んでいるやつが居る。
(どいつもこいつもつまんねえ連中だな。) ベンチに座ってボーっとしている婆さんが居る。
フラフラと歩き回っている男が居る。 その公園の隣には小さな保育園が在る。
こんな所でやってていいのかね? 不気味な気もするが、、、。
1時間ほど歩き回ると家に帰ってくる。 そしたらテレビを見ながら新しいケーキを考える。 でもなかなか浮かばない。
布団に潜り込んで考えてみる。 「アーモンドスライスだろう、、、。 ということは、、、。」
考えを巡らせながらいつの間にか寝てしまう。 「ただいまーーーーーー!」
そして清美の大きな声で目を覚ますのである。 「おー、帰ったのか。」
「帰って悪かった?」 「別に、、、。」
「ちょっとくらい喜んでよ。 大好きなかわいーーーーーーーい奥さんが帰ってきたんだからさあ。」 「そうだね。」
「んもう、淡白なんだから。」 「こってりしてなくて悪かったなあ。」
「ぜんぜん面白くないわよ。」 「ごめんなあ。 全身真っ白じゃなくて。」
「あ、あの、、、。」 清美は複雑な顔で台所へ入っていった。
「さあてと、、、夕食を作らないとねえ。 坊ちゃんがお腹を空かせてるから。」 「誰が坊ちゃんだよ?」
「あなたよ。 あ、な、た。」 「んもう、、、。」
清美が食堂へ入って夕食の準備を始めた頃、床屋をやっている健作が訪ねてきた。
「おー、元気か?」 「元気じゃなかったら動き回ってねえよ。」
「それもそうだ。」 俺は健作の向かい側に座って缶ジュースを開けた。
「ところで知ってるか?」 「何を?」
「あの女子体操の選手さあ、オリンピックに出れなくなったんだって。」 「ほう、、、そらまた大変だねえ。」
「なんでも煙草と酒が問題だったそうだ。」 「そんなに何年もやってたのか?」
「いやあ、直前になってちょこちょこっとやったんだそうだ。」 「それでオリンピック無し?」
「お前はどう思うよ?」 「俺だったらか? そうだなあ、拳骨一発噛まして「馬鹿野郎、気を付けろ!」って怒鳴って終わりかなあ。」
「そんなもんなのか?」 「そりゃよ、中学生の頃からずーーーーーーーーっとやってましたってんなら考えなくもない。 でもたった一度だろう? 厳し過ぎないか?」
「しかし相手はオリンピックだ。 けじめを付けないわけにもいかないだろう。」 「普段、甘ったるいことばっかやらかしてる連中がけじめなんて付けられるかってんだ。」
「それはそうだけど、、、。」 「だいたいなあ、日の丸を背負ってるのは団体じゃなくて選手だ。 そのプレッシャーと来たら小指に月を載せるくらいに重たいんだぞ。」
「その譬えは分かるようで分からんが、、、。」 「いいんだ、とにかくプレッシャーに圧し潰されてる選手をどうやって支えるか、、、それも考えずに酒だ煙草だ追放だってなるのは頭が単純すぎるんだよ。 馬鹿じゃねえのか?」
「馬鹿だからこうなったんじゃねえのか?」 「それもそうだ。」
「あらあら、田代さん 遊びに来たの?」 「そうそう、清美ちゃんに会いに来たのよ。」
「気持ち悪いなあ、健作 いつからゲーになったんだ お前?」 「失礼な、、、。」
俺たちが話している所へ清美が夕食を運んできた。 「せっかくだから食べていってね。」
「ありがとうございます。 奥さん。」 「調子いいやつだなあ。」
「んもう、、、これだからなあ。」 「何だよ?」
「たまにはさあ、一緒に入ろうとか背中を洗ってやるとか無いの?」 「昔、たくさんやったからいいだろう?」
「愛してないのねえ? 吉田さんにでも可愛がってもらおうかなあ?」 「いいんじゃないのか? あいつは変態デブが大好きだから。」
「変態デブ? 誰だろうなあ?」 「お前だよ。 お、ま、え。」
チーズの仕込みをしながら俺は清美を虐めている。 「いいいんだもーーーーん。 可愛がってもらうんだもーーーーーん。」
不貞腐れた清美はタオルを持って浴室へ入っていった。
誰も居なくなった店で一人、チーズと睨めっこをする。 長年やってきたけど、こいつはいつも黙っている。
そのくせ、機嫌が悪いと水っぽくなったり変な味がしたりするからおっかない。
そんなのは客に出せないからまたまたやり直し。 一晩掛かって苦闘することだってよく有る話。
「あの人、美味そうに食ってたなあ。」 「誰がよ?」
「わ、いつの間に?」 「そりゃあ、30分もすればいくら私でも上がるわよ。」
「そっか。 もう30分も経ったのか。」 渋々、一人で浴室に入る 俺、、、。
溜息を吐きながら体を洗っているとガラガラってサッシが開いた。 「体冷えちゃったからまた来た。」
「へえ、ほんとは俺の裸を見ようと思って来たんだろ?」 「誰がそんな品の無い裸を見るかってよ。」
「言ったなあ、、、。」 そう言って洗面器のお湯を清美にぶっかける。
「やったわね? やり返しちゃうんだから。」 清美も洗面器を持って応戦する。
いつもの夫婦のいつもの喧嘩である。 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけれど、、、。
バチャバチャとお湯を掛け合っておいて、気付いたら浴槽の中でくっ付いて仲良く話してるんだからなあ、、、変な夫婦だよ。
「李多ちゃん、喜んでたわよ。」 「何が?」
「今日のチーズケーキ、特別美味しかったって。」 「そうか。」
「んもう、感動しない人なのねえ。」 「いちいち感動してたら身が持たないよ。」
「そうだろうけど、たまには喜んでやったらどうなのよ? タコ。」 「うわ、負けたからってタコ呼ばわりしおったわ。」
「あんたの顔はタコじゃないよ。 タコ。」 「へへへへへへ、タコかいな?」
「もういいわ。 呆れすぎて何も言えないわ。」 「へえ、25年も飽きずにくっ付いておいてか?」
「長すぎたわよねえ。」 「どうぞ、吉田さんにでも嫁いでくださいな。」
「負け惜しみ?」 「ぜーんぜん。」
喧嘩してもこの二人はなかなか離れないのである。 居心地がいいのか悪いのか?
月曜日は休みなんだ。 それでね、昼まで俺はゴロゴロと寝てるわけ。
清美はというと「今日はあそこに行ってくるからお昼は無しね。」なんて言って出掛けてしまう。 「勝手にどうぞ。」
「あーら、不倫でもしちゃおうかなあ?」 「たぶん無理だと思うけど。」
「何でよ?」 「だって清美には俺が居るから。」
「んもう、こんな時だけ旦那気取りなのね?」 「いいじゃん。 お前からくっ付いてきたんだから。」
「はいはい。 そうでしたねえ。」 口を尖らせた清美は財布を持って出て行った。
後は俺の天下だ。 布団の中でゴロゴロしながらいろんなことを考える。
新作のケーキを作ることももちろん考えてるよ。 アーモンドスライスを使ったやつとかね。
月曜日、みんなが働いている時に休むってのはなんか気分がいいもんだ。 殿様になった気分だねえ。
休日には電話すら掛かってこない。 たまに予約してくる人は居るけど、、、。
たまにねえ、「ホットケーキは焼かないのか?」って聞いてくるやつが居る。 「焼いてほしいか?」って聞いたら「焼けないならいいよ。」って返してきた。
頭に来たから鉄板を買ってきてコンロの横に置いておいた。 「マスター、この鉄板は何に使うの?」
「ああ、これね。 ホットケーキを焼いてくれってやつが居たからさあ、頭に来て買っておいたんだ。」 「ホットケーキ?」
「そう。 ケーキ屋なのにさあ、喫茶店だって思ってるやつが居たんだよ。」 「喫茶店か、、、。 悪くはないんじゃないの?」
「でもさあ、そこまでやっちゃうとケーキが中途半端になるよ。」 「俺もそう思って喫茶店にはしないんです。」
「あんなやつも居たよなあ。」 いろんな客を思い出してみる。
大学を卒業して町を出て行った人も居る。 定年退職で教師を辞めた人も居る。
高校を卒業してこの町で働き始めた人も居る。 結婚した人も居れば別れた人も居る。
人の人生だ。 何が起きるか分からない。
昼になり、腹も減った俺は冬眠から覚めた熊みたいにモソモソと台所へやってきた。
飯を盛り、霊倉庫から生卵を取り出すと毎度お馴染みのtkgの出来上がり。
だれがtkgなんて言い始めたんだろうねえ? かっこ良くも何ともないじゃないか。
日本人だったらねえ、卵かけご飯って言うんだ。 しょうがねえ連中だぜ。
省略すればいいって思ってんだからなあ。 ご先祖様が泣くぞ。
腹を満たすと散歩に出掛ける。 隣のラーメン屋は営業中だ。
営業中ってことはご自慢のスープが作れたってことだな。 その隣はカメラ屋だった空き店舗。
その隣は八百屋だったな。 この辺りも随分と寂れちまったんだなあ。
たまに変なおっさんが真っ赤な顔で歩いていく。 昼間から酔っ払ってるらしい。
こんなやつには絡まないことだ。 絡んでろくなことは無い。
ブラブラと歩きながら公園にやってきた。 昼間から遊んでいるやつが居る。
(どいつもこいつもつまんねえ連中だな。) ベンチに座ってボーっとしている婆さんが居る。
フラフラと歩き回っている男が居る。 その公園の隣には小さな保育園が在る。
こんな所でやってていいのかね? 不気味な気もするが、、、。
1時間ほど歩き回ると家に帰ってくる。 そしたらテレビを見ながら新しいケーキを考える。 でもなかなか浮かばない。
布団に潜り込んで考えてみる。 「アーモンドスライスだろう、、、。 ということは、、、。」
考えを巡らせながらいつの間にか寝てしまう。 「ただいまーーーーーー!」
そして清美の大きな声で目を覚ますのである。 「おー、帰ったのか。」
「帰って悪かった?」 「別に、、、。」
「ちょっとくらい喜んでよ。 大好きなかわいーーーーーーーい奥さんが帰ってきたんだからさあ。」 「そうだね。」
「んもう、淡白なんだから。」 「こってりしてなくて悪かったなあ。」
「ぜんぜん面白くないわよ。」 「ごめんなあ。 全身真っ白じゃなくて。」
「あ、あの、、、。」 清美は複雑な顔で台所へ入っていった。
「さあてと、、、夕食を作らないとねえ。 坊ちゃんがお腹を空かせてるから。」 「誰が坊ちゃんだよ?」
「あなたよ。 あ、な、た。」 「んもう、、、。」
清美が食堂へ入って夕食の準備を始めた頃、床屋をやっている健作が訪ねてきた。
「おー、元気か?」 「元気じゃなかったら動き回ってねえよ。」
「それもそうだ。」 俺は健作の向かい側に座って缶ジュースを開けた。
「ところで知ってるか?」 「何を?」
「あの女子体操の選手さあ、オリンピックに出れなくなったんだって。」 「ほう、、、そらまた大変だねえ。」
「なんでも煙草と酒が問題だったそうだ。」 「そんなに何年もやってたのか?」
「いやあ、直前になってちょこちょこっとやったんだそうだ。」 「それでオリンピック無し?」
「お前はどう思うよ?」 「俺だったらか? そうだなあ、拳骨一発噛まして「馬鹿野郎、気を付けろ!」って怒鳴って終わりかなあ。」
「そんなもんなのか?」 「そりゃよ、中学生の頃からずーーーーーーーーっとやってましたってんなら考えなくもない。 でもたった一度だろう? 厳し過ぎないか?」
「しかし相手はオリンピックだ。 けじめを付けないわけにもいかないだろう。」 「普段、甘ったるいことばっかやらかしてる連中がけじめなんて付けられるかってんだ。」
「それはそうだけど、、、。」 「だいたいなあ、日の丸を背負ってるのは団体じゃなくて選手だ。 そのプレッシャーと来たら小指に月を載せるくらいに重たいんだぞ。」
「その譬えは分かるようで分からんが、、、。」 「いいんだ、とにかくプレッシャーに圧し潰されてる選手をどうやって支えるか、、、それも考えずに酒だ煙草だ追放だってなるのは頭が単純すぎるんだよ。 馬鹿じゃねえのか?」
「馬鹿だからこうなったんじゃねえのか?」 「それもそうだ。」
「あらあら、田代さん 遊びに来たの?」 「そうそう、清美ちゃんに会いに来たのよ。」
「気持ち悪いなあ、健作 いつからゲーになったんだ お前?」 「失礼な、、、。」
俺たちが話している所へ清美が夕食を運んできた。 「せっかくだから食べていってね。」
「ありがとうございます。 奥さん。」 「調子いいやつだなあ。」