*短編集*
佐久間さんと私
昭和レトロな内装の喫茶店。
進まない課題に困ると、私は決まってこの店へと足を運ぶ。
ゆったりしたジャズが流れる店内で、観葉植物の陰に隠れるように奥まった場所にあるこの席は、集中して勉強するのにちょうどいい。
ただとても困った問題がある。それは、課題の中身ではなく——。
「手、止まってる」
指摘されて、慌ててシャーペンを握り直す。集中しないと。
「お客さん少ない時間帯のうちに、終わらせるんだろ?」
「はい、そのつもりです」
数カ月ほど前、このお店でバイトをしている佐久間さんと知りあって以来、私は大学生の彼に勉強を教えてもらうようになった。
親切丁寧に教えてくれる彼が、少し気になり始めたこの頃。困った問題とは、佐久間さんのことで。
「どこがわからないの?」
ノートを覗き込む、彼の顔が近い。吐息が触れそうなくらいの距離、私のために親身になって勉強を教えてくれる佐久間さんの、穏やかな声が耳に心地よく響いている。
——集中できない。顔、赤くなってないかな。なんだか恥ずかしくて、全然頭に入ってこない……!
「こら、上の空。別のこと考えてる?」
「ご、ごめんなさい……!」
「集中できない?」
じっと、瞳を覗き込んでくる佐久間さんから、目が離せない。まるで魅入られたかのよう。
ぼうっとしていると、ふと彼の目元がゆるんで——。
「約束したでしょ、早く終わらせるって」
すっと彼の顔が近づき、吐息が耳にかかる。身体が熱い、ドキドキと心臓が痛くて、身動きが取れない。
「言いつけを守れない悪い子は」
耳元で、低い声が囁く。
「狼に、食べられても文句言えないよな?」
ぱくり、と。言いながら耳を甘噛みされ、痺れるような熱が身体を巡る。
——佐久間さんになら、食べられてもいいかも。
なんて思って頬も耳も真っ赤になった私に、佐久間さんはいたずらっぽく笑うのだった。
𓂃𓋪◌
【01】佐久間さんと私
——かわいすぎて、思わずかじってしまった……!
内心焦りながらも、緩む顔を抑えきれない佐久間さんなのでした。
進まない課題に困ると、私は決まってこの店へと足を運ぶ。
ゆったりしたジャズが流れる店内で、観葉植物の陰に隠れるように奥まった場所にあるこの席は、集中して勉強するのにちょうどいい。
ただとても困った問題がある。それは、課題の中身ではなく——。
「手、止まってる」
指摘されて、慌ててシャーペンを握り直す。集中しないと。
「お客さん少ない時間帯のうちに、終わらせるんだろ?」
「はい、そのつもりです」
数カ月ほど前、このお店でバイトをしている佐久間さんと知りあって以来、私は大学生の彼に勉強を教えてもらうようになった。
親切丁寧に教えてくれる彼が、少し気になり始めたこの頃。困った問題とは、佐久間さんのことで。
「どこがわからないの?」
ノートを覗き込む、彼の顔が近い。吐息が触れそうなくらいの距離、私のために親身になって勉強を教えてくれる佐久間さんの、穏やかな声が耳に心地よく響いている。
——集中できない。顔、赤くなってないかな。なんだか恥ずかしくて、全然頭に入ってこない……!
「こら、上の空。別のこと考えてる?」
「ご、ごめんなさい……!」
「集中できない?」
じっと、瞳を覗き込んでくる佐久間さんから、目が離せない。まるで魅入られたかのよう。
ぼうっとしていると、ふと彼の目元がゆるんで——。
「約束したでしょ、早く終わらせるって」
すっと彼の顔が近づき、吐息が耳にかかる。身体が熱い、ドキドキと心臓が痛くて、身動きが取れない。
「言いつけを守れない悪い子は」
耳元で、低い声が囁く。
「狼に、食べられても文句言えないよな?」
ぱくり、と。言いながら耳を甘噛みされ、痺れるような熱が身体を巡る。
——佐久間さんになら、食べられてもいいかも。
なんて思って頬も耳も真っ赤になった私に、佐久間さんはいたずらっぽく笑うのだった。
𓂃𓋪◌
【01】佐久間さんと私
——かわいすぎて、思わずかじってしまった……!
内心焦りながらも、緩む顔を抑えきれない佐久間さんなのでした。