婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

side セルビオ


 ――side セルビオ――

「どうなっているんだっっ!!」

 俺は苛立ちを隠しきれず、側近のマシューに叫び散らした。

「……連絡ミスのようです」
「連絡ミスで済ますなぁぁ!!!」

 あの舞踏会でミュリアに婚約破棄を言い渡したが、なぜか俺が振られたかのような同情した視線が集まってしまい、居心地最悪の中、簡単に挨拶だけ済ませ、そそくさと奥へ引っ込んだ。

 俺は椅子に座り、頭を抱える。

「おい……ミュリアはあの時『喜んで』と言ったな?」
「はい、左様ですね。しかと喜ばれておりました。殿下との結婚がよほど嫌だったのでしょうね」
「うるさい……余計な事いうな」

 お前はいつも一言多いんだっ。

 かけている眼鏡を指で上げながらマシューは、書類をパラパラとめくっていた

「ところで、拘束いたしました脅迫状の(ぬし)はいかがいたしましょう?」
「はぁぁ!? 処刑だ! 処刑!」

 あの婚約破棄騒ぎの10分後に王宮魔法騎士団が捕まえた脅迫状の主、ラリア伯爵令嬢……捕まえるの遅いっちゅーの!! ミュリアが走り去って行った後じゃねーか!

「そもそもですね、殿下がラリア伯爵令嬢にはっきり断らなかったのが、事の発端ですよ」
「子供の頃の話だろ!」

 俺はバンッと勢いよくデスクを叩いた。

 7歳の時の事を持ち出されても正直困るっ!


「好きな人がいらっしゃらないなら、ぜひ、明日のパーティーでは私をお選びください!!」

 俺の8歳の誕生日前日、4歳年上のラリア伯爵令嬢にグイグイ迫られ、威圧感溢れるその迫力に泣きながら頷いてしまった可哀想な俺。

 明日は王太子である俺の婚約者を決めるパーティーでもあった。好きな人がいなかったらという言葉に、好きな人がいるからいいか……と安易に考えてしまった俺も甘かった事は認めよう。子供だったしな、うん。
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