婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

 舞踏会15分前……

 ギリギリまで公務をこなし、書類と向き合っていた俺はマシューの声掛けで、慌てて着替えた。

 ああ、やっとミュリアと踊れるな……今日の為に公務を俺は頑張った。俺、えらい! 今夜はミュリアと共に存分に楽しもう。

 ミュリアと踊って、話して……そうだ、バルコニーに誘おう。今宵は満月。いい雰囲気になっちゃったりして……

 この後の楽しい時間の事を思うと頬が緩んで仕方がない。

 あれもして、これもして……と妄想を膨らませ、機嫌よく着替えた俺の胸ポケットからカサリと音がした。

 不思議に思い、胸ポケットを探る。折り畳まれた紙が1枚。

『本日の舞踏会にてミュリア・メリッジとの婚約を破棄せよ。従わない場合、ミュリア・メリッジの命の保証はない』

 はぁ? なんだこの安っぽい脅迫状は……しかも、胸ポケットにって……俺が気づかなかったらどうするんだよ。そもそも、なんでこんな内部まで脅迫状(こんなもの)が出せたんだ? メイドに内通者がいるって事か?

「マシューを呼んで、人払いしてくれ」

 俺はメイド達に指示を出し、舞踏会の準備で忙しくしていたであろうマシューの不機嫌な顔の前にひらりと脅迫状を見せる。

「なんの遊びですか? 殿下」

 あまりにもくだらない脅迫状を読んだマシューの第一声。

 目が回るほどの忙しさに加え、この脅迫状のせいで呼び出されたマシューの機嫌は最悪だ。

 いや、だとしてもだ。王太子に脅迫状が届いたんだから、少しは心配しろよな。
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