婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
side ミュリア
――side ミュリア――
「ふん♪ふん♪ふん♪」
あー、鼻歌が止まらない。楽しくて仕方なぁぁい!!
あの婚約破棄騒ぎから逃げ出した後、傷心の娘を装い、しばらく田舎に行きたいと涙ながらにお父様に訴えた。お父様も娘可愛さに好きなだけ療養してきなさいと、馬車を速攻用意してくれ、その日の内に送り出してくれた。
さすがお父様、仕事が早いわぁぁ。
お陰で私はあれから3日も経たずに、我がメリッジ領でも辺境にあるマリフの街にきている。
「ミュリア様……お顔がニヤけておりますけど」
呆れ顔をする一緒に付いてきてくれた侍女のエル。
「だぁぁって、嬉しいじゃない? これで妃教育ともおさらばよ」
「はぁ……本当によろしいんですか?」
「えっ? いいわよ」
「左様ですか」
実は殿下に脅迫状が届き、私の身の安全の為、婚約破棄の振りをするので話を合わせて欲しい。と伝達がきた……全てが終わった後に。
遅いわよっ!
ところで、あれって……話、合わせた事になるのかしら? 婚約破棄に同意したから話は合わせた事になるよね、一応。
喜んでダッシュで逃げちゃったけど。
しかも、振りのつもりがこのドタバタ騒ぎでなぜか婚約破棄成立しちゃったみたいで……ふっふっふっ……やったぁ! 私は自由の身よっ!
「いいのですかね……こんな辺境まできてしまって。殿下、悲しまれてるんじゃないですか?」
「いいの♪いいの♪」
エルは、これ以上言っても無駄だと諦めたように肩を竦めた。
そりゃあ……ね、殿下とは幼馴染だから一緒にいて気も楽だし、びっくりする程かっこよくなっちゃったし、殿下の事は嫌いじゃない。結婚してもいいかなぁ……ぐらいは思っていたわ。
でもさ、私も夢見る女の子。恋ってものがしたいじゃない? 幼馴染からいきなり婚約者なんてロマンチックの欠片もない。それに、私は妃なんてガラじゃないもの。
両腕を上げ、青空に向かって思いっきり伸びをする。
もう妃教育なんてまっぴらごめんよ。