若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
花を1人部屋に残して行く事に少しの不安を抱えながら、後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、足早にフロントに向かう。

旅館にもまだ席を残してはいるが、会社を立ち上げてから忙しさに怠けてあまり仕事の引継ぎも出来ないまま、分からない事はその都度伝えると言う方法で、なんとか業務をこなしてもらっていた。

そのつけが溜まっていたんだと申し訳なく思い、プライベートだからと断る事が出来なかった。

「お疲れ様です。なかなか引継ぎが出来なくてすいません。」

今まで自分のこなしていた経理業務の一部を番頭に伝える。
50代の番頭はパソコン作業が苦手なのは致し方ない。

出来るだけ分かりやすく、たまにメモを残しながら作業を一緒に進めて行く。

「本当、若旦那が変わってから気付く事だらけだけど、柊生さんがこんな細かい事までやっていたんだと感心しました。」
番頭はひとしきり感心しながら業務を引き継いでくれる。

今お願いしているのは、歯ブラシやシャンプなど、各客室に配布するアメニティの発注業務だ。

他に頼んでも良かったのに、自分でやってしまった方が楽だと、人知れずやってしまっていたのがいけなかったと、今もって気付く。

作業を伝え終えてから30分ほどは経っただろうか、他に日頃から疑問だった箇所の業務を教えながらも、花の事が気になってくる。

あんなに食べていたし、1人にさせて悪阻がぶり返していないだろうか?

頭の半分以上は花の事で占め、おざなりな回答とまた分からなかったら電話して下さいと、その場しのぎの返答をしてしまう。
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