若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「花?」
部屋を出る前までいた窓際に目をやるがそこには既にいなかった。

寝室か?と思い扉を開けるがいない…。

あの、北海道まで探し追いかけた消し去りたい記憶が蘇り手が震え、心臓が嫌な音を立てて高鳴る。

「花⁉︎」
風呂場か?いや…トイレか!!

花の体調を思いばかりトイレのドアをそっとノックする。

「花?…大丈夫か?」
ガチャガチャとドアを捻ると開かない。
…良かった居た、と思うと同時に少しでも花から離れてしまった自分に嫌悪感を抱く。

ゴン、と思わずドアに自分の額をぶつけた。

「…柊君?……お帰り。
ちょっと気持ち悪くなっちゃって…少し良くなって来たから、大丈夫だから…。」

力無い花の声が聞こえてきて、ほっとしたのと同時に申し訳ない気持ちに苛まれる。

「……ごめん。俺が離れたから…俺のせいだ。
……ドア開けられるか?」
自己嫌悪に陥りながらも、花の顔を見ないと安心出来無いと気持ちが揺れ動く。

しばらくの間の後、ガチャッと鍵が空いてそっとドアを開く。

中でうずくまり膝を抱えて俯いている花に駆け寄り背中を撫ぜる。

「大丈夫か?まだ気持ち悪い?」

「…もう大丈夫。吐いたらスッキリしたから。」
花は健気にも力無く笑う。

「抱き上げても大丈夫?」
柊生は気遣いながら花を顔色を伺う。

こくんと小さく頷く花をそっと抱き上げ寝室に向かう。

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