若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
柊生は、壁にもたれ掛かりながら片手でスマホを見ている。
残りの手が無防備に花の目の前にぶら下がっているから、花は気になってつい触りなくなってしまう。

大きくて長い指に、切り揃えられた爪まで綺麗。そう思いながら観察していると、薬指にキラリと結婚指輪が輝いている。

職業柄、普段は鎖に付けて首から下げている指輪が今日は、保育園に挨拶に来たからか指に嵌められていた。

花は嬉しくなって、無意識にその大きな手をぎゅっと握ってみる。

ドキッとしたのは柊生の方で、何事かと花を見る。

最近は欲求不満のせいか敏感になっていて、花に触れただけで下半身が疼くから、出来るだけ触れないように気を付けているくらいだ。

それなのに、全く分かっていない花は無防備に俺に触れてくる。

「どうした?」

柊生は内心ドキドキなのに、何気なさを装って花に聞く。

「指輪してくれてるから、嬉しくなってつい。」
ニコニコと可愛らしく微笑んでいる。

「一応挨拶に行くからと思って。
本当はいつも付けていたいんだ。親父に止められたから仕方なく外してるだけだ。」

よく考えてみたらもう旅館には立たないのだから、花が喜んでくれるのならこのままずっと嵌めていても、誰からもお咎めは無いのではないかと柊生は思う。

握られている手を花に弄ばれながら、柊生は疼く身体をどうにか制御していた。

「ここ、固くなってるね。弓握る時に当たるの?」
柊生の手をくまなく観察している花は、ぷにぶにと硬くなった場所を押す。

弓道の試合まで後数週間だ。
近頃では早朝に時間を作って朝練するほど毎日の日課になっている。
< 122 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop