若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
名前が呼ばれて席に着く。
「…柊生君?…一橋、柊生君だよね?」
突然、柊生は席を案内してくれたホールスタッフから声をかけられる。
いつだって、花のことばかりを気にかけている柊生だから、そこで初めて自分の名を呼ぶ彼女の顔を見る。
あっ…と思う。
高校時代に付き合っていた元カノだった。
あの頃は、引かれたレールに乗っていつか旅館を継ぐんだと、淡々とした毎日を送っていた。
何に対しても受け身で、どこか諦めていた所のあるつまらない高校生だったから、同級生からは取っ付きにくいヤツだったと思う。
彼女は確か…
高校最後の半年だけ付き合っていた気がする。
別々の大学に進んだから自然消滅して終わった筈だ。
朧げな記憶の中からなんとか引き出す。
あの頃、恋愛に受け身だった柊生は、積極的に近付いて来た子と、なんとなく暇つぶしで付き合っていたに過ぎなかった。
好きになろうと努力した事があっただろうか?
答えを求められるのであれば、否だ。
花を好きだと自覚して、本当の愛を知ったからその気持ちからしてみたら、あの頃の恋愛は本当にただの暇つぶしだった。
その証拠に、その頃付き合ってた彼女達は口々につまらないと言われ、最後はいつだって『私なんてどうせ好きじゃ無いんでしょ』と別れる事が多かった。
彼女もそんな軽薄な付き合いの中の1人でしか過ぎない。
「私の事覚えてる?
宮城可奈だよ。高校三年生の最後の時付き合ってたでしょ。
…本当久しぶり。」
元カノは昔を懐かしむように親しげに話しかけてくるけれど、柊生にとっては消し去りたい負の時代だったりする訳で……。
気に掛かるのはどうしたって花の心情だけだから、曖昧な返事しか出来ずにいる。
「…結婚してこの街を出たって聞いてたけど…。」
柊生はおぼろげな記憶をたぐり寄せ何とか話しを続ける。
「そうなんだけど、去年離婚してバツイチの子持ちだよ。」
可奈は自虐的にそう言って、呆気らかんと笑った。
「柊生君は結婚したんだよね?
去年の同窓会で噂になってたから、妹の花ちゃんだよね?許嫁だったなんて聞いてなかったからびっくりしたんだよ。」
そこで元カノは初めて花に目を移し、ペコリと軽くお辞儀をする。
「あの頃、何回かお会いしましたよね。」
花も軽くお辞儀をしながら微笑みを浮かべそう言う。
柊生は、ハッとしながら花の顔を伺う。
あの頃、小学生だった花が覚えていたんだと少し驚き動揺する。
「覚えててくれてるんだ。
あの頃柊生君って、妹さんにだけはいつも気にかけてて、お菓子買ってたりしたから、密かに嫉妬してたんだよねー。
今じゃ懐かしい思い出だけど。」
彼女は、『いけない仕事中だった』と、言ってやっと席を離れて行く。
「…柊生君?…一橋、柊生君だよね?」
突然、柊生は席を案内してくれたホールスタッフから声をかけられる。
いつだって、花のことばかりを気にかけている柊生だから、そこで初めて自分の名を呼ぶ彼女の顔を見る。
あっ…と思う。
高校時代に付き合っていた元カノだった。
あの頃は、引かれたレールに乗っていつか旅館を継ぐんだと、淡々とした毎日を送っていた。
何に対しても受け身で、どこか諦めていた所のあるつまらない高校生だったから、同級生からは取っ付きにくいヤツだったと思う。
彼女は確か…
高校最後の半年だけ付き合っていた気がする。
別々の大学に進んだから自然消滅して終わった筈だ。
朧げな記憶の中からなんとか引き出す。
あの頃、恋愛に受け身だった柊生は、積極的に近付いて来た子と、なんとなく暇つぶしで付き合っていたに過ぎなかった。
好きになろうと努力した事があっただろうか?
答えを求められるのであれば、否だ。
花を好きだと自覚して、本当の愛を知ったからその気持ちからしてみたら、あの頃の恋愛は本当にただの暇つぶしだった。
その証拠に、その頃付き合ってた彼女達は口々につまらないと言われ、最後はいつだって『私なんてどうせ好きじゃ無いんでしょ』と別れる事が多かった。
彼女もそんな軽薄な付き合いの中の1人でしか過ぎない。
「私の事覚えてる?
宮城可奈だよ。高校三年生の最後の時付き合ってたでしょ。
…本当久しぶり。」
元カノは昔を懐かしむように親しげに話しかけてくるけれど、柊生にとっては消し去りたい負の時代だったりする訳で……。
気に掛かるのはどうしたって花の心情だけだから、曖昧な返事しか出来ずにいる。
「…結婚してこの街を出たって聞いてたけど…。」
柊生はおぼろげな記憶をたぐり寄せ何とか話しを続ける。
「そうなんだけど、去年離婚してバツイチの子持ちだよ。」
可奈は自虐的にそう言って、呆気らかんと笑った。
「柊生君は結婚したんだよね?
去年の同窓会で噂になってたから、妹の花ちゃんだよね?許嫁だったなんて聞いてなかったからびっくりしたんだよ。」
そこで元カノは初めて花に目を移し、ペコリと軽くお辞儀をする。
「あの頃、何回かお会いしましたよね。」
花も軽くお辞儀をしながら微笑みを浮かべそう言う。
柊生は、ハッとしながら花の顔を伺う。
あの頃、小学生だった花が覚えていたんだと少し驚き動揺する。
「覚えててくれてるんだ。
あの頃柊生君って、妹さんにだけはいつも気にかけてて、お菓子買ってたりしたから、密かに嫉妬してたんだよねー。
今じゃ懐かしい思い出だけど。」
彼女は、『いけない仕事中だった』と、言ってやっと席を離れて行く。