若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「良く覚えてたな。
俺なんて、顔見てもしばらく思い出せなかったのに。」
柊生はそう言って、何でもなかったかのようにメニューを見始めた。

「覚えてるよ。あの頃の柊君は、私にとって大人で遠い世界の人だったから、彼女さん達と歩いてる柊君が眩しかったもん。」

『彼女さん達』と言って話す花に、嫌味を言われているんだろうかと、心配しながら柊生は言葉を選び話す。

「あの頃の俺は無感情で、引かれたレールの上を歩いてるだけの面白味も無い男だったから、きっと一緒にいても楽しい相手では無かったと思う。
それを証拠に誰とも長くは続かなかった。」

柊生はそれだけ言って、この話しを断ち切るように、花にメニューを見せてどれにする?と選ばせる。

花は2つのメニューで迷ったから両方とも注文する事にした。

「柊君、モテるもんね。
結婚したってきっと変わらずモテてるでしょ?」
またぶり返した話しに柊生は困り気味に苦笑いする。

「花以外はみんな同じに見えるって言っただろ。それとも焼きもち焼いてくれるのか?」
話しを終わらせたいから花を揶揄う。

「そんなんじゃないもん。」
プンとした顔をした花が可愛くて、思わず頬を撫でる。

「俺の過去は負の歴史だから、掘り出してくれるな。」
そう伝えて話しを終わらせた。

そんな2人の様子を仕事をしながらチラチラと
元カノの可奈は見ていた。

柊生君て…
あんなに表情豊かに笑う人だった?

私が付き合っていた頃は、優しかったけどあんまり心を見せてくれる人では無くて、一緒にいても無機質で心がここには無い感じがした。

それでも一緒にいる時は、みんなの柊様を独り占めにしている優越感に浸っていたが、段々虚しくなっていき大学に入って一人暮らしを始めた辺りから、お互い段々疎遠になって自然消滅してしまった。
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