若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
その後、桃のパフェを持って来た元カノが呆れた顔でパフェを置いて行った。

柊生にとってそれが元カノへの最大の牽制で、もう俺に話しかけてくれるなと言う意思表示でもあった。

「はい。花食べて。」

何故か右手を柊生に握られたままの花に、
柊生はアーンと言ってパフェを食べさせてくれる。

「しゅ、柊君、自分で食べられるから。」

まだまだ続く容赦ない夫の甘い拷問に、花は真っ赤になりながら目の前に出されたスプーンをパクッと食べる。

困り顔の花とは逆に、楽しそうな柊生は花の唇についたクリームを指で拭いて、その指をペロリと舐めるから、花は心臓はドキンっと高鳴りあらぬ方向に打ち出した。

周りから見たらもはやただのバカップルだ。

「楽しいな。花を堂々と愛でる事ができるのは、癖になりそうだ。」

変な快楽を覚えた柊生は終始にこやかに花の世話をして、満足したように店を後にする。

「恥ずかしくてもうこのお店に来れないよ。」

花は2人っきりになった車の中で柊生に抗議する。

「だから、完全個室の鉄板焼きの方が良かっただろ?」
柊生はしてやったりという顔でそう言って、車を走らせ帰路に着く。

そんな夫婦のイチャイチャを見せ付けられた可奈は、ポケットに潜ませていた自分の連絡先を書いたメモを握り締めていた。

ふんわりした服を着ていた花のカバンを見ると妊婦バッチが付いていた。

可奈にとっては絶好のチャンスだと思ったのだ。
完璧主義な柊生でもきっと隙が生まれる筈だと。

夫の不倫は妊娠中に多いと何かの記事で読んだ事がある。彼だって例外ではないと、元カノ可奈は隙あらば連絡先を渡そうとタイミングを狙っていた。

それなのに…。

食事を終えた柊生達は見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに、イチャイチャし始め怖いぐらいに2人の世界だった。

こんな人では無かったはず…。

と、可奈はまた思う。

高校生時代の柊生は、付き合っていたにも関わらず手を繋ぐ事も、食べ物をあんな風に食べ合う事もしてはくれなかった。

数少ないが身体を繋げた時でさえ、どこか冷静で怖いぐらい自分をくずさなかった。
淡白な感じだったけど、そこが彼の魅力だったし、カッコいいとときめいていたのに…。

こんな低俗な男に成り果てしまったのかと可奈はガッカリする。

それと同時に1人愛され甘やかされている花に嫉妬し怒りまで覚えたのだった。
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