若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
絶対、警戒されていた。
花とお腹の赤ちゃんに何かあったらいけないから、何度も言いくるめられて心が折れそうなくらいだった。

これは……見つかったら、怒られるだろうな。
花は覚悟する。

今まで柊君に本気で怒られた事は一回だけ。

兄妹になった日に、お兄ちゃんと呼んだ時だけだと思う。
『お兄ちゃんって呼ぶな。』
整った顔で真剣に怒る姿は周りの空気をも凍らせた。

バレないように行ってそっと帰って来ようと思っている。
本当は学生の頃だって観に行きたかったけど、子供だった花には行き方も場所さえも分からず行けなかった。
だから、今回は絶対行きたいと思っていた。

この先だってこんなチャンスは滅多に無い。

「柊君に絶対バレたく無いんです。見つかると絶対怒られると思います。」
花は間柴と美波にそう伝える。

「任せて、花ちゃん。変装できるようにいろいろアイテム持って来たから。」
楽しそうに美波はそのアイテムを大きなカバンから取り出し、アレコレと花に着せ始める。

ダブダブの男物のTシャツにダブダブのズボン、ボーイッシュな格好はどう見ても普段の花からはかけ離れていて、お腹の膨らみさえも程よく隠してくれた。

頭にはキャップを被り、ストリートファッション系にまとめられた。

「花ちゃん、何でも似合うね。」
軽く変装した間柴がそう言って褒めてくれる。

「間柴先生も、チャラ男キャラ似合います。」
どこから見ても間柴とは分からないような、
サングラスを付けていた。

「私は逆に真面目キャラにしてみたの。」
そう言う美波は、対象的な三つ編みに黒縁メガネと言う出立ちだ。

「美波先生、可愛いです。
でも、この3人で一緒にいたらどう見たって浮いちゃいますよ。」

弓道大会と言う堅い感じの場所に、果たしてこんな格好の人はいるのだろうか?
花は逆に悪目立ちしそうで心配になる。

「…確かに、弓道観に来るキャラじゃ無いね…。」
そう言って、3人共もう一度変装し直す。

最終的に花は三つ編みに黒縁メガネ、ダブダブのTシャツワンピに決定した。

間柴はあえてサングラスを取り、キャップを被ってお忍びのアイドルみたいな出立ちで落ち着く。
美波はと言うと、紺のパンツスーツに身を包み、平日のOLさん風に落ち着く。

「何故その格好?」
間柴も疑問に思ったのか思わず突っ込んでいた。

「運営側の人ってこう言う格好してるんだってば。サポートしてるスタッフさんと同化するはずだから。」
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