若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「旦那様格好よかったね!」
そう言って花に美波が話しかける。

「私、実は大会は初めて観たんです。
お2人のおかげでやっと観に来る事が出来ました。ありがとうございます。」
花は感無量と言う感じで、瞳を潤ませながら2人にお礼を言う。

「いやいや、僕達の方こそ軽いノリで連れて来ちゃって…
見つかったら旦那様に怒られるんじゃ、申し訳ないなと思ってたくらいだから。」
間柴がそう言って頭を掻く。

「強引にでも来てよかった。
この先だっていつ観に来れるか分からないし…。
学生の頃、来たくても行けなかったから本当に嬉しいんです。」
ニコニコ笑う花を見て2人はホッと安堵する。

「旦那様に見つかって怒られる時は、私達も一緒に怒られるからね。」
美波は呆気らかんとそう言って、場の空気を和ます。


その頃、柊生は既に気付いてしまっていた。

会場を退場するタイミングで、何気なく目を客席に向けただけだった。

サッと見渡したに過ぎ無いそんな瞬間でさえも、目敏く見つけてしまったのだ。
会場に花が居る…。

昔から何故か花の事は直ぐに見つけ出す事が出来た。

花の中学の体育大会。
女将さんは旅館業で忙しく、あの日も団体の固定客の宿泊と重なって、仕方なくまだ学生だった俺にせめて写真を撮って来て欲しいと頼まれた。

俺は花には告げずにこっそり観に行った。

花の学年はみんなでダンスだったから。
こんなに大勢の中で、花だけを見つけるなんて不可能だろうと諦めかけた時、何故だかパッと目を奪われる。

花が同級生の男子と楽しそうに移動する光景に…。

あの頃からもしかしたら、無意識に花に惚れていたのだろうか?

あっ!と思って目で追うと、隣の男が花の頭をポンポンと撫ぜるから、俺の妹に気軽に触れてくれるなと苛立ったのを覚えている。

それにしても何故…
あんなに来ないようにと念には念を入れて話したのに…。

花はどうしても観に来たかったのか…。

急に集中していた意識が花の方に引っ張られる。

車椅子だった。同僚2人も付いるようだ。花は大丈夫…自分にそう言い聞かせる。

柊生は気持ちを取り戻すように、集中しなければと控え室で正座して目を閉じる。

花に下手な所は見せられない。

そう思うとまた一気に集中力を取り戻す。

どんな時だって、結局は花が柊生の原動力なのだ。
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