若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
この瞬間、一枚の何の変哲もないメモ用紙が、俺にとってとても大切な宝物になった。

花からもらった手紙をそっと、胸ポケットにしまう。

今日と言う日は、花が言う試練の始まりに過ぎないんだ、とぼんやり思う。

俺はいつも、これ以上、花に辛い事が無いように毎日を楽しく幸せに暮らせるように、そんな事ばかりを思って、俺のこの手で花を守り幸せになければと意気込んでいた。

でも、そうではなかった。

花はあの小さく華奢な体の内に、
どんなに辛い出来事でさえも試練という名に置換えて、自分自身で乗り越えられる強さを秘めていた。

試練の先にある僅かな幸せの為に…。

いや、きっと試練そのものが花にとっては幸せなのかもしれない。

立ち向かう花を支え、時に戦いもがき、寄り添う事が俺の使命なのだと今、確信する。

きっと、幸せや喜びを与えてもらっているのは俺自身だ。

花さえ側にいてくれたらそれが俺の幸せだ。

落ち着かない時間の中で、花に返事を書く事にする。

緊張と不安、そして未来への希望を胸にこれからの日々を思いペンを走らせる。

伝えたい事はただ一つ。
どんな辛く困難な日々でもいつも共に在りたいと言う事。

さぁ、父になる覚悟は出来た。
早く産まれておいで。

そんな事を思いながら病院の待合室でひたすら待つ。
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