若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「そうですよね。怪我なく大きな喧嘩無く、平和に終わる日はそう無いから嬉しいですよね。」
間柴先生も笑顔になる。

「今日良かったら、この後夕飯でも一緒にどうですか?2人じゃ気まずいなら、美波先生も誘って飲みにでも行きませんか?」

間柴先生は親睦も兼ねてかちょくちょく誘ってくれるのだけど、今まで誘いに乗ったのは一度くらいしか無い。
それも美波先生がいる時だけ限定だ。

いくら旦那様が出張の日でも、人妻がのこのこ男性の誘いにのる訳にはいかないし、この近くの商店街は私の事を知っている人も多い。

誰が何処で見てるか分からないから、
そこに意図はなくても慎重に行動しなくてはならないのだ。

しかも、私は一橋柊生の妻なのだから。

外ではしっかりしなくては、彼の顔に泥を塗る事になる。

妹の立場の時からその思いは一貫して持っている。

「ご飯だけでもダメ?花先生って実家暮らしじゃ無いんだよね?」
間柴先生が今日はやたらと食い下がる。

「えっと…実家暮らしでは無いんですけど、
ちょっと身内が口煩くてすいません。」

身内と言うのは旦那様なんだけど…と思うけど、隠している手前後ろめたい。

嘘が付けない性格が仇となっている。

「花先生、今日は彼氏と外食なんでしょ?
早く帰らないと待たせちゃうよ。」

美波先生が上手に助けてくれる。
そうか…。彼氏がいるって言う程にすれば誘われにくくなるのか。

今更ながら思う。

恋愛経験の乏しさが、上手くかわす事さえ出来ずこう言う時戸惑ってしまう。

「ありがとうございます、美波先生。」

私はバタバタと1日の勤務日誌をパソコンに打ち込み始める。

びっくりしたのは間柴先生で、
「えっ…花先生って彼氏いたの?」
ポカンとした顔で美波先生にこっそり聞いていた。

「そう見たいですよ。
しかもハイスペックな彼氏さんらしいですから。間柴先生、残念ながら出遅れですよ。」

にこりと笑って美波先生も机に向かう。

「どうですか?傷心の間柴先生、私で良ければ飲みに行ってあげても良いですけど。
もちろん先生の奢りですよ。」
ニヤリと美波先生が笑う。

間柴は思う。
花先生は本当に純粋無垢で、新卒1年目の初々しい新入社員だったから男の影さえ気付かずにいた。

これまで自慢じゃ無いが結構モテてきた。
今はたまたま彼女がいないだけで、
これは彼女に会うためにフリーだったのかと思うくらい運命的なものを感じていたのに…。

「えっ…、いつから彼氏持ち?」
小声で美波先生に聞くしか無い。

「入園前からですって。大学2年からのお付き合いらしいですよ。私も最近聞いて驚いたんですけどね。」
コソコソと2人で話している。

私は2人のやり取りに全く気付く事なく。
柊君の事をひたすら思い、早く仕事を終えて待ち合わせ場所に行かなくてはと、一生懸命仕事に集中していた。
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