若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「お待たせ。」
柊生はにこやかに笑い、
シートを出来るだけ後ろに動かしたかと思うと、花のシートベルトを外してヨイショっと持ち上げ助手席から運転席の自分の膝の上に座らせる。
横抱きにされてぎゅっと抱きしめられる。
花は目を瞬き、驚きながらも柊生の背中に手を回しおずおずと抱きしめる。
「花は綺麗だ。
可愛くて優しくて思いやりもあって、
ダメな俺を甘やかして褒めて宥めてくれる。花の笑顔で癒されるし、明日も頑張ろうって思わせてくれる。
俺の自慢の奥さんだ。」
花の前髪を掻き分けて、小さい頃に負った古傷にキスを落とす。
「花が負った全ての傷を癒してあげたい。
これ以上辛い事が起こらないように守ってあげたい。
俺自身が花の安心出来る場所でありたい。
だけど、困った事に花は綺麗になり過ぎて
誰かに掻っ攫われやしないかって不安になるんだ。
だから、本当は何処にも出したく無いし、誰の目にも晒したく無い。
ポケットに閉まってこっそり持ち歩けたらいいななんて思ったりもする。」
花がそこでさすがに、ふふふっと笑う。
「さすがにそんなに小さくはなれないよ。」
フッと柊生はため息を吐いて、
「そうなんだ。俺だけの花で居て欲しいけど、それは程のいい独占欲だ。
花はもっと外に出て輝ける人だから、俺が独り占めしていたらいけないんだ。」
「だから、今日連れて来てくれたの?」
「そうだな。外に出す第一歩だと思って、
俺の妻ですって、みんなに見せびらかしたい気持ちもあるから。」
「見せびらかすの?」
クスクス笑いながら花が問う。
「それはそうだよ。自慢の奥さんだからね。
だけど、他の奴に合わせてもしも惚れられたらって思うと心配で仕方ない。」
「それは…柊君だけだと思うよ。
それに私、柊君以外男の人を好きにはなれないから大丈夫だよ。」
「本当に?
俺より出来た奴なんて星の数ほどいるぞ。」
「柊君より、私を愛してくれる人はいないでしょ?私も柊君より、愛する人はこの先も絶対現れないよ。」
「絶対?」
「絶対だよ。」
「…そうか、絶対だな。」
「じゃあ、堂々としてればいい。
俺達は夫婦ですって世間に認めてもらえるように。」
「そうだね。」
お互いをお互い強く抱きしめ合う。
不思議と元気が出て勇気が湧き上がってくる。この人が、側で見ててくれるから安心だと深く思う。