若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
くたっとなって柊生の膝の上、しばらく髪を撫でられて心地良い、まるで眠りに入る微睡んだ優しい時間のような感覚の中、花はしばらく柊生の胸に頭を埋めて幸せに浸っていた。


トゥルルル トゥルルル……

不意に柊生のスマホが鳴る。

面倒くさそうに手を伸ばし、花の髪をくるくると弄びながら電話に出る。


「はい、おはようございます。」

声だけはいつもの外向きの爽やかさで、ププっと花は笑ってしまうのを、両手に押さえて何とか堪える。

『おはよう、柊生君。
俺、今から新幹線乗るんだけど、柊生君は今どの辺り?
花ちゃんも一緒に連れて来てくれた?』
電話の主は島津だった。

「ええ、居ますよ。今、朝食を食べるためインターチェンジで休憩中です。島津さんは何時に到着予定ですか?」

『えっとねー、9時半かな。柊生君の方が早く着きそう?』

「そうですね。9時くらいには到着予定です。
では、先に会場の下見に入ってますね。
会場に到着次第連絡を下さい。」

『了解だよー。花ちゃんに会えるの楽しみだな。今夜の懇親会にも出てくれるって?』

「ええ…。一応そのつもりですが、僕の妻なんで、口説かないで下さいね。」
そう牽制しなければいけない。

『さすがに旦那と一緒にいる人妻は口説かないよ。でもさ、やっと会わせて貰えるからちょっと嬉しいんだよね。』

「やめて下さい。そう言うの…本当、
花は島津さんみたいな人に会うの初めてなんですから、くれぐれも揶揄わないで下さいね。
では、また後で。」
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