若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「始めまして、主人がいつもお世話になっています。」
花が島津に頭を下げる。

「始めまして。花ちゃん、やっと会えて嬉しいよ。」
始めて会って、初っ端から花の頭をポンポンしてくる。

これにびっくりしたのは花だけじゃ無く、隣にいる柊生も顔色を変えて、一瞬でその場の空気を凍らせる。

「…あの、こんな頼りない妻ですけど、お役に立てる事があれば、お手伝いさせて頂きます。」
と花は頭を下げる。

「花はお客様で良いんだよ。みんな会社から派遣されて来てるんだ。特等席で座って、見ていてくれれば良いい。」

柊生が優しく言って聞かす。

「そうだよ。花ちゃんは、終生君の妻です。
って顔で堂々と座っていてくれたら良いよ。あっ!ただ、一つだけお願いしても良いかな?」
何を言い出すんだと、柊生は島津に厳しい目を向ける。

「あれだよ。花束贈呈。
今回、主催会社の30周年記念の式典の一貫として呼ばれたんだけど、主催者側の会長に花束を渡さなきゃいけないんだ。
俺みたいな男から渡されるより、花ちゃんみたいな可愛らしい子から貰った方が男は嬉しいでしょ。」

「そ、そうなんですか?
分かりました。私なんかで良ければ…花束贈呈させて下さい。」

押しの強さに怯みながら、そのぐらいならと
花は快く快諾する。

「島津さん、花は本当に素人なんです。
人前でとか無理なんで、舞台とかに上がらせるのは…ちょっと辞めて頂きたい。」
柊生は心配になって口を挟む。

「花ちゃんがやってくれるって言ってるんだから良いんじゃないの。
本当、花ちゃんの事になると過保護なんだから柊生君は。
そういう君を見たくて、ちょっかい出しちゃうんだけどねー。」

楽しそうに島津は言って、何食わぬ顔でリハーサルに入って行った。

柊生は花を連れて控え室に入る。

バタン、と閉まった扉と同時に終生は花を背後から抱きしめる。

「わっ!柊君、どうしたの?びっくりした。」
突然の事にドキンと心拍が上がる。

だけど、何だかいつもの柊生じゃ無い気がして、花は心配になり体をくるんと回転させて向き合い、顔色を伺うように覗きこむ。

「あの人、本当に俺を振り回して、揶揄うのが好きなんだよ。イラっとさせる天才だ…。」
柊生には珍しく子供みたいに苛立ちを隠さない。

「柊君、売られた喧嘩は買わない主義なんでしょ?気にしたら負けだよ。」

花はぎこちないながら、柊生を慰めようと背中に手を回し、トントンと優しく撫ぜてみる。

「慰めてくれるんだ。ありがとう。花はあんな奴にも優しいんだな。」

「だって、島津さん居ないと柊君が大変なんでしょ?」

島津に司会を頼むのはこれで3回目なのだが、やはりその場の回しがぐんを抜いて上手く、咄嗟の判断や機転も回るところが向いていると、柊生は評価している。

ただ、女癖が悪くプライベートでは仲良くしたく無いタイプだ。

花にちょっかい出すところも気にくわない。

俺の花に気安く触るなっ。と、言えるものなら言いたかったぐらいだ。
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