若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「暴風雨になるって言うから急いで帰って来たんだ。花をそんな時に独りにさせたくない。」
よしよしと頭を撫でながら、なんとか花を泣き止ませようと柊生は言葉を並べる。

逆に花はそんな事を聞いて涙が止まらなくなる。
「…私の為にそんな無茶しないで…。」

「自分の為に帰って来たんだ。
花を今夜独りにしたら、俺が一生悔やまれる。」
優しく微笑みながら柊生は言う。

「もう…風邪ひいちゃうから、早くお風呂入って…。」
花は無理矢理涙を抑え込み、柊生から離れようとする。

「それを言うなら花も髪、ちゃんと乾かしてくれ。」
そう言っておでこにチュッとキスをしてやっと解放してくれる。

「花が髪を乾かしてる間に出るからちょっと待ってろ。」

柊生は足速に洗面所に向かいドライヤーを花に手渡してくれる。
 
本音を言うなら乾かしてあげたいが、
いくらなんでも半裸状態じゃさすがに寒い。

「ちゃんと温まって来なきゃダメだよ。」
ぷぅっと膨れっ面の花に、

「分かったから…
泣くか怒るかどっちかにしてくれ。」
花の頬に流れた涙の後を消すように親指でそっと撫ぜ、やっと柊生はお風呂に向かう。

窓の外は風が吹き荒れ暴風雨。

だけど柊生が帰って来た部屋は暖かく、たちまちシェルターに早変わりした。

さっきまでの不安で心細い気持ちは吹き飛び、幸せと安堵に満たされる。

帰って来てくれてありがとう。

お風呂から出たらちゃんと素直に伝えなくちゃ、と花は思った。
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