若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
ブーーー

始まりのブザーが鳴り、島津が眩しい舞台の照明の中に消えていく。

柊生は花の隣にわざわざ椅子を持って来て、並ぶように座って緊張している花の手を、励ますように優しく握ってくれた。

舞台では、会の主催者が紹介され会社創立三十周年の祝辞を述べ、にこやかに島津がトークに笑いを交え進行していた。

その落ち着いた采配と安定した笑いに、凄いなと花は驚き話しに聞き入ってしまう。

柊生がそんな花の手をぎゅっと握り、腑に落ちない顔つきで花を見つめる。

そして花束贈呈の時間が迫って来る。

そろそろ自分の番だと思うと、心臓がドクンドクンと高鳴るのを感じてソワソワしてくる。

「花はただ、あの叔父さんに向かって歩いて行って、にっこり笑って花束渡して、俺の元に帰って来るだけだ。転んでも気にするな必ず俺が助けに行く。」

柊生に耳打ちされて、えっ!?と思って仰ぎ見る。

「花を助ける為に俺はここに居るんだ。」

至って真顔で話しているから、
えっ?そんなわけ無いよね?
と、思ってフッと笑ってしまう。

「本気で言ってる?」

「至って本気だ。
花が舞台で転んでくれたら、絶好のチャンスだ。俺の妻だって、堂々と抱き上げて見せつけてやる。」

それはさすがに恥ずかしいから……やめて欲しいけど。

柊生のおかげで少し気持ちが落ち着く。
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