若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「本日は花束贈呈人にこの後、公演で来られています、一橋柊生氏の奥様にお願いしたいと思います。
花さんそれではお願いします。」

拍手で出迎えられる。

まさか名前まで呼ばれるなんて思っていなかった為、ドキッとして一瞬足がすくんでしまうが、柊生が優しく背中を押してくれたので一歩をなんとか踏み出す事が出来た。

花はこんなにも沢山の人前に立つ事は初めてで、緊張で手が震えてしまう。

花束を渡して柊君の元に帰るだけ…

ひたすら心でそれだけを唱え、主催者の顔だけを見て進む。

頭を下げて、

「おめでとうございます。」

と伝え笑顔を作り何とか事なきを経て、柊生の方に踵を返す。
満面の笑みで拍手をしてくれる柊生を見つめてひたすら足を進める。島津と目が合い、微笑みペコリと頭を下げて前を通り過ぎようとすると、

「せっかくですので、花さん一言お願いします。」
と、止められる。

全く聞いていなかった展開に内心びっくりするが、

「本日は創立30周年おめでとうございます。
よき日を迎えられた事、そしてその記念すべき日に立ち合わせて頂けた事を大変嬉しく思います。」

咄嗟に思いついた言葉を並べる。

実は以前、実家の100周年記念祝賀会で、柊生が話していた事が頭に浮かんできただけなのだが…。

「ありがとうございます。
突然お願いしましたが、快く引き受けて頂きましてありがとうございました。」

島津から温かい拍手をもらい、観客席からも拍手喝采で柊生の待つ舞台の袖に戻る。
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