若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

舞台の幕が降り、客席が徐々に明るくなる。
花は急いで立ち上がりスタッフ専用のドアを開けて、柊生がいる控え室に急ぐ。

その控え室に向かう廊下の前から、花を迎えに行こうとこちらに歩いて来る柊生に会う。

にこやかな笑顔の柊生に花は駆け寄り、お疲れ様でしたと伝える。

「花もお疲れ様。疲れただろ？早くホテルに戻ろう。」
そう言って手を引かれ控え室に戻り、帰り支度をする。

コンコンコン

とノックが聞こえ、「はい、どうぞ。」と柊生が声をかける。
花もドアの方を見ると、ガチャっと開いて島津が顔を出す。

「お疲れ様でした。柊生君、花ちゃん。」

島津は、ボストンバックを一つ持って、帰るところに挨拶に来たようだ。

「お疲れ様でした。
今日は司会をありがとうございました。
やはり島津さんは上手ですね。安心して任せられました。」
柊生が爽やかにそう言う。

「いやいや、花ちゃんを舞台に上げちゃってごめんね。内心怒ってるだろ？
花ちゃんも、突然に一言お願いしちゃって驚いただろ？ごめんね。」

「いえ、貴重な体験をありがとうございました。」
花は島津に目を向け頭を下げる。

「いつも模範回答だなぁ。花ちゃんも。」
島津はニコッと笑い花の頭をトントンしようとする。

その手をすかさず、やんわりと柊生が掴み
「こういう事はやめて頂きたい。僕の妻なので。」
にこりと笑ってさりげなく、花を島津から離す。

「ああ、ごめんね。花ちゃん可愛いからさ。つい。」

ついってなんだよ。心で柊生は悪態を吐きながら、表向きはにこやかに話す。

「また、何かありましたらお声かけさせて頂きます。やはり、僕の知ってるなかで島津さんの司会が1番なので、またよろしくお願いします。」
そう言って、頭を下げる。

「ありがとう。もう二度とオファーは無いかもと、内心ハラハラしてたんだけど良かったよ。じゃ、また懇親会で。」

そう言って、笑顔で手を振ってホテルへ帰って行く。

島津も同じホテルを取ってはいるが、さすがに夫婦の中に入って一緒に帰ろうと図々しい事は言えず、1人寂しくホテルに戻って行った。