若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「お疲れ様、疲れたよね。ちょっとだけでも仮眠する?」

花がキングサイズのベッドに腰を下ろして、柊生を覗く。

「心地良い疲れだから大丈夫だ。少しだけボーっとしたい。花は、疲れてないか?」

「私はほとんど柊君を見てただけだから、大丈夫だよ。」

そう言って、柊生の隣りにコロンと寝転がる。
フッと笑って柊生が花にすかさず腕枕をしてくれる。

「柊君て凄いよね。あんな沢山の人の前でも、緊張しないで上手に話せるんだもん。ほんとさすがだよ。」

「惚れ直した?」
柊生が含み笑う。

「もちろんだよ。私だけじゃ無くて会場にいる女子はきっと、みんな柊君のファンになったんじゃない?」

「花が惚れ直してくれたらそれだけで十分だ。」
花をぎゅっと抱き寄せる。

「花が見てると思うとちょっと緊張した。」

柊生が不意にそう言うから、びっくりして花は顔を上げる。

「あれで⁉︎
全然そんな風には見えなかったよ?」

「取り繕うのが上手いだけだ。いつだって、一声目は緊張するよ。
それに、花の前でカッコ悪い失敗は出来ないと思うと余計緊張した。」

「柊君にカッコ悪いところなんて無いよ。」
柊生はハハッと笑って花の頭を撫ぜる。

「花、どうしよ。したくなってきた。」

うん?何を……首を傾げて考える花を、薄い目で見ながら下腹部を指差すから、 

「えっ⁉︎ダメだよ、後1時間くらいで支度しない…」

ぎゅっと横抱きにだきしめられて、脚まで絡めてくるからびっくりする。

「しゅ、柊君。」

焦って離れようとするのに離れてくれなくて、花の首元に顔を埋めて、はぁーと息を吸う。

「花の匂い、良い匂い。ホッとする。」

「ちょ、ちょっと、汗臭いかも冷や汗かいたから。」
ジタバタするのにそれでも離してくれなくて…

「花は凄いな土壇場でいつだって肝が座る。
島津の不意打ちだってさらりと交わして、さすが俺の花だと思った。」

「あれは…。」
話し出そうとする花の唇を唐突に塞ぐ。
いつに無く強引で、獰猛な犬に絡まれるみたいだと花は思う。

唇を強引に割って入ってきた舌に翻弄されながら、どんどん理性を奪われて行くような感覚に襲われる。

「あ……っん……」
いつの間にか柊生に組み敷かれて見下ろされる。

「その気になった?」
舌舐めずりした柊生が妖艶に見えるから、心拍がドキンと跳ねる。

花は柊生を見つめながらぼぉーっとした頭で、このまま溺れてしまっても良いんじゃないかと頭の片隅で思ってしまう。

柊生はそんな花を見下ろし、どうにか電圧を下げようと葛藤する。

「遅くても10時には戻って来よう。花を抱く時間が欲しい。」
花でも分かりやすくハッキリ言うから、顔が真っ赤になってしまう。

花は両手で顔を隠す。

柊生は苦笑いし、ゴロンと花の隣に寝転び目を閉じて気持ちを落ち着ける。

いつまでも初心の花は柊生には目に毒で、いつだって忍耐を要求される。

なんとか理性を取り戻し体を起こし、花の髪に触れて触り心地を堪能する。

花がそっと指の隙間から柊生を覗く。

いつもの感じに戻っていてホッとして花も体を起こす。

「夜まで我慢する。シャワー入ってくるから、のんびりしてていいよ。」 
柊生は寝室を出て行く。

花はその後ろ姿をつい、見つめてしまう。
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