若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
6時から始まった懇親会に2人で顔を出す。

柊生は紺の光沢入りの三つ巴の細身のスーツを着て、いつもより一層華々しい雰囲気を醸し出している。

花は紺のシルクタッチ生地のシックなAラインのカクテルドレスを身にまとっている。

このドレスを選んだのはもちろん柊生で、
2人並ぶなんとなく合わせたようで花は内心恥ずかしいのだが…。

「挨拶が終わったら早く部屋に戻ろう。
花が綺麗過ぎて誰にも見せたく無い。」

柊生が耳元でこっそり言う。

花はパッと柊生を見上げてびっくり顔だが、柊生は何食わぬ顔でサッと作り笑顔に戻っていた。

「今日はありがとうございました。
一橋さんの話しとても興味深かったです。」

恰幅の良い男性が近付いて来て柊生に握手を求める。

「奥さんも花束をどうもありがとう。」

あっ…この人この会社の会長さんだ…。
そう思い花は慌てて頭を下げる。

「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。」
柊生は握手を返しながらにこやかに笑う。

「それにしても、こんなに素敵な奥様がいらっしゃったなんて、うちの会社の半数以上の女性がきっとガッカリされてますよ。」

会長は笑いながら柊生の肩をトントンする。

「本当はあまり連れ回したくは無いのですが、せっかくの週末なので旅行も兼ねて今回は特別です。」

「そうなんですね。
ここは温泉も有名ですが、美味しい物も沢山ありますので、是非堪能して帰って頂ければと思います。」

「ありがとうございます。
聞けば会長がオーナーの人気スイーツ店があるとか、妻は甘い物には目が無いので明日お店に伺いたいと思っています。」

「そうなんですよ。
妻がスイーツ作りが好きでね。
趣味の延長でひっそりやってたのんですが、インスタであげた途端に人気がで始めて、今じゃ趣味なのか仕事なのか分からないくらい忙しくなってしまって、なかなか大変ですよ。」

苦笑いしながら会長が言う。

「お名前を…花さんと言いましたか。
是非食べに行ってやって下さい。
私は味見ばかりさせられて、こんなに体型になってしまったけど、味は絶品ですから。」

はっはっはと笑う会長はそれでも嬉しそうで、夫婦仲の良さを伺わせる。

「是非、明日行きたいと思います。楽しみです。」
嬉しそうに花が言う。

「ああ、そこの立食にあるケーキやプリンも妻の店で作った物なので、是非味見して下さいね。」

花にそう言って会長は秘書に耳打ちして、いくつか見繕って持ってこさせる。

「わざわざありがとうございます。」

ニコニコ顔の花は本当に嬉しそうに笑うから、それを見て会長も柊生も束の間、穏やかな気持ちになる。

「本当に可愛らしい奥さんだ。
では、また後ほど。」

そう言って会長は2人から離れて行った。

その後から待っていましたと言うように、
社長や専務、この会社のお偉方が2人を囲む。

しばらく名刺交換と挨拶が続き、花は結局お皿のスイーツの半分も食べられなかった。
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