若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
そう言えば、
出張に持って行った荷物とか仕事カバンが無い。

髪を乾かし終えて、玄関に散らばったびしょ濡れの服達を片付けながら花は思う。

柊生が持って帰った物といえば、ビニール袋に入った駅弁が2つだけだ。

さすがにお財布はその袋に入っていたけど、
スマホは?毎日持ち歩くタブレットは?

真っ白なTシャツを着てさっぱりした顔で柊生がお風呂から出て来た。

「ごめん、ありがとう。俺が片付けるから…。」
びしょびしょの靴下や服類を慌てて花から奪い取る。

「柊君、持ち物ってどうしたの?お弁当しか無いよ。」

「ああ、新幹線降りたら、かなりの土砂降りだったから、全て預けて宅配で送ったんだ。」

なるほど、そう言うところ…さすがだなぁと花は思う。

「スマホも無いよ?」

「スマホは不注意で水没した。
使えそうも無いから荷物と一緒に預けたんだ。
花のスマホ番号が分からなくて、心配するといけないと思って、家電に留守録残しておいたんだけど。」

「えっ!……気付かなかった…。」

ガックリして花は駅弁を持ってダイニングに向かう。

本当だ…

家の電話がチカチカと赤いランプを付け留守録がある事を知らせていた。

不意に背中からぎゅっと抱きしめられ、花はドキッと心拍が上がる。

「ごめん。もしかして連絡つかなくて心配させたか?」
花は首をブンブン横に振って、

「気付かなかった私がいけないんだよ…。」
柊生の腕の中、くるっと回って柊生に抱き付きぎゅっとする。

柊生もそんな花を愛おしそうに、優しく抱きしめ返す。

「帰って来てくれてありがとう。」
花は柊生の顔を仰ぎ見て微笑む。

「花の笑顔が見れたから無茶した甲斐があった。」
柊生も微笑み、花の唇に優しくキスを落とす。

軽く啄むように何度かしていると、抑えきれなくなってだんだん深いものになっていく。

緩く結んだ花の唇の隙間から舌を差し入れ、絡ませる。
口内をくまなく舐めまわし、花がくたっとなったところでやっと解放する。

結婚何年目だろうが、変わらず花は可愛くて愛しくて、離れ難い。

出来れば先に花を召し上がりたいのだが…

きっとお腹を空かせて待っていただろうと、
頭の中で葛藤し、やっとの思いで花を解放する。

「腹減っただろ?先に食べよう。」

花のピンク色に染まった頬をサラッと撫でる。
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