若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「柊生君見てると結婚もいいなとは思うよ。でも、俺はひと所にじっとしていられない質なんだ。結婚には1番向いてない人間だと思うよ。」

島津はそう言って笑う。

やっぱり人種が違うなと柊生は1人納得しながら、
「ちょっと島津さんの感覚は分からないですけど…。
僕は結婚してやっと帰る場所が出来た気がしてるんです。自分自身が安定して、地に足が着いたという感覚なんですよ。」

「そういうの羨ましいね。
まぁ、俺には一生訪れないかもしれないなぁ。俺はきっとずっと海に浮かんで漂流するクラゲみたいに、漂って生きていくんだ。
他人に縛られず自由がいいんだよな、結局は。」

ハハッと島津は寂しく笑う。


柊生には既に花がいない人生なんて考えられないが、そういう生き方もあるんだなと思う。

「じゃあ、俺は若者達と交流してくるから
夫婦水入らずで楽しんで。」
島津は片手を振って離れて行った。

花も柊生と共にペコリとお辞儀をして見送る。

「柊君、1つ食べるの手伝って。いっぱい取りすぎちゃった。」
花がチョコレートケーキを柊生に差し出す。

「食べさせて。」

柊生が悪戯っ子の顔をして言うので、花はびっくりして目を見開き

「えっ!?」
聞き返す。

「誰かに見られちゃうよ⁉︎」

「誰も見てないよ。別に夫婦なんだから恥ずかしがる事じゃないだろ。」

いやいや、夫婦だからとか関係なく恥ずかしいのは恥ずかしい…

花は瞬きを繰り返し躊躇する。

「腹減ったな。俺が舞台に立たされてる間に花はちゃっかりスイーツ食べてたんだな。
俺はスイーツには負けるのか…」

恨めしそうにそうに言って目を細めて見て来る。

「ご、ごめんなさい。
ど、どうぞ食べてください。」

花は慌ててチョコレートケーキをひと口大に切ってフォークで刺して柊生の口に差し出す。

それを柊生が満足そうに笑ってパクッと食べる。
「美味いな。甘さ控えめで食べやすい。」
至って冷静に言う。

花はちょっと恥ずかしくて俯き固まってしまう。

固まってしまった花の代わりに残りのケーキを柊生がパクパク食べる。

「これ食べ終わったら部屋に帰ろう。」

柊生はそう告げて最後のひと口を食べる。
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