若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
柊生が立ち上がって空になった皿をウェーターに返してくれる。
「…ありがとう。」
やっと花が解凍されて動き出す。
柊生に背中を押されて会場を後にする。
「ああ、最後に会長に挨拶して帰った方がいいな。花、ちょっと待ってて。」
いささか花を1人にするのは嫌だが、
気遣いで疲れただろうと近くの椅子に座らせ、柊生は1人帰る旨を伝えに人混みを掻き分ける。
「本日は、呼んでいただきありがとうございました。」
柊生は会長に社交辞令を述べ、丁寧に帰る旨を伝えてから、踵を返して花の所に急いで戻る。
すると、また誰かに話しかけられている花がいる。
柊生はヤキモキしながら近付き、表面上はにこやかに話しかける。
「花、お待たせ。」
何気なさを演出しながら、花に近付きさりげなく庇うように背に隠す。
「あっ、こんばんは。
一橋さん今日はお疲れ様でした。」
相手の男が慌てて体裁を整え頭を下げてくる。
コイツ誰だ?
と柊生は心で思いながら、表向きはにこやかに挨拶をすると、相手も挨拶を返し自己紹介をする。
「僕は主催者の孫にあたりまして、ここの会社の営業部長をしております。清水と申します。」
名刺を差し出された為、自分の名刺を内ポケットから取り出し差し出す。
今日このやり取りを何度繰り返しただろうと思いながら、柊生を綺麗な所作で名刺を差し出し笑顔を取り繕う。
「実は、あなたを推したのは僕なんです。
一度公演を見せてもらいまして、是非社員にも聞いて欲しいと思いまして。」
「ありがとうございます。」
その後、清水の話がのらりくらりと続き、なかなか離してもらえない。
「どうですか?是非2次会にも参加して頂きたい。」
「妻も慣れないものですから、今夜はこれで、すいませんが失礼させて頂きます。」
柊生も表面上はあくまで崩さず、早々退散したいと話しをする。
「しかし、一橋さんがご結婚なさっていたなんてまったく知りませんでした。
しかもこんなに素敵な奥様がいらっしゃるなんて。」
まだ話し足りないのか、帰りたいのに清水は空気を読んでくれない。
「特に隠していた訳でも無いのですが。
妻は僕の仕事とは関わりの無い仕事をしていますので、あまり僕の仕事で引っ張り回したく無いんです。
今回は本当に特別なので。」
「そうなんですね。それじゃあ、僕らは奥様にお会い出来てラッキーでしたね。」
そう言って、柊生の後ろに隠れていた花を覗き込み笑顔を向ける。
花も愛想笑いを浮かべて、
「私、本当に主人の仕事に疎くて、なんのお手伝いも出来ないんです。
今回は客観的に観させていただく機会出来て、貴重な体験でした。ありがとうございました。」
妻として模範解答を述べる。
「妻はこのような場所に慣れないので、すいませんがこれで失礼致します。」
「…ありがとう。」
やっと花が解凍されて動き出す。
柊生に背中を押されて会場を後にする。
「ああ、最後に会長に挨拶して帰った方がいいな。花、ちょっと待ってて。」
いささか花を1人にするのは嫌だが、
気遣いで疲れただろうと近くの椅子に座らせ、柊生は1人帰る旨を伝えに人混みを掻き分ける。
「本日は、呼んでいただきありがとうございました。」
柊生は会長に社交辞令を述べ、丁寧に帰る旨を伝えてから、踵を返して花の所に急いで戻る。
すると、また誰かに話しかけられている花がいる。
柊生はヤキモキしながら近付き、表面上はにこやかに話しかける。
「花、お待たせ。」
何気なさを演出しながら、花に近付きさりげなく庇うように背に隠す。
「あっ、こんばんは。
一橋さん今日はお疲れ様でした。」
相手の男が慌てて体裁を整え頭を下げてくる。
コイツ誰だ?
と柊生は心で思いながら、表向きはにこやかに挨拶をすると、相手も挨拶を返し自己紹介をする。
「僕は主催者の孫にあたりまして、ここの会社の営業部長をしております。清水と申します。」
名刺を差し出された為、自分の名刺を内ポケットから取り出し差し出す。
今日このやり取りを何度繰り返しただろうと思いながら、柊生を綺麗な所作で名刺を差し出し笑顔を取り繕う。
「実は、あなたを推したのは僕なんです。
一度公演を見せてもらいまして、是非社員にも聞いて欲しいと思いまして。」
「ありがとうございます。」
その後、清水の話がのらりくらりと続き、なかなか離してもらえない。
「どうですか?是非2次会にも参加して頂きたい。」
「妻も慣れないものですから、今夜はこれで、すいませんが失礼させて頂きます。」
柊生も表面上はあくまで崩さず、早々退散したいと話しをする。
「しかし、一橋さんがご結婚なさっていたなんてまったく知りませんでした。
しかもこんなに素敵な奥様がいらっしゃるなんて。」
まだ話し足りないのか、帰りたいのに清水は空気を読んでくれない。
「特に隠していた訳でも無いのですが。
妻は僕の仕事とは関わりの無い仕事をしていますので、あまり僕の仕事で引っ張り回したく無いんです。
今回は本当に特別なので。」
「そうなんですね。それじゃあ、僕らは奥様にお会い出来てラッキーでしたね。」
そう言って、柊生の後ろに隠れていた花を覗き込み笑顔を向ける。
花も愛想笑いを浮かべて、
「私、本当に主人の仕事に疎くて、なんのお手伝いも出来ないんです。
今回は客観的に観させていただく機会出来て、貴重な体験でした。ありがとうございました。」
妻として模範解答を述べる。
「妻はこのような場所に慣れないので、すいませんがこれで失礼致します。」