若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
キスの余韻でぼーっとしている花を抱き上げ、ふかふかのソファにそっと下ろす。

「弁当温めるからちょっと待ってろ。」
そう言って柊生はキッチンに行ってしまう。

ゴロゴロ…ゴロゴロゴロ……
 
雷の音が聞こえ、花はビクッと体を硬らせる。子供の頃から雷は大嫌いだった。

慌てて柊生の所に行き、大きな背中の後ろに隠れる。
柊生は花の雷嫌いはもちろん知っているから、

「まだ、遠くだから大丈夫だ。
見晴らしが良いのはこういう時に困るよな。カーテン閉めよう。」
そう笑いながらカーテンの自動ボタンを押してくれる。

遠くで稲妻がピカッと光って暗い空が一瞬明るくなる。
雨も強いまま、まだ止む気配がない。

柊生は温めた弁当と花を連れ、ソファに寄り添い座る。

「ああ、お茶欲しいな。麦茶でいいか?」
また柊生が立ち上がるから、花もサッと立ち上がり、
「私が入れるよ…」
と、心もとなげについてくる。

「花、ここのマンションには避雷針が付いているから高くても安心なんだ。
この部屋に落ちる事はないから心配するな。」

ポンポンと頭を撫でるが、花にはただの気休めにしかならない。

落ちると思う事が怖いわけでは無い。
あの音と光そのものが怖いのだから。

2人でソファに座りお弁当を食べる。

花には、小さく区切った箱に色々な種類が入った彩り御前で、
「わぁ、美味しそう…。」
と、ちょっとだけやっと気分が上がってくる。

柊生はがっつり焼肉が乗ったお弁当だったから、柊君らしいと花はクスッと笑う。

「何?食べたいなら物々交換するか?」
と、柊生が問う。

「ううん。柊君てコンビニで買うお弁当も大抵丼物だったよね?丼物が好きなの?」
花が、ふふっと可愛く笑う。

やっと花の笑顔が見れたと、柊生は内心ホッとしながら、

「別に丼物が好きだから食べてる訳じゃない。手っ取り早くて時短だろ。
効率を考えて選んでるだけだ。」

「サラダもちゃんと食べた方が良いよ。」

「その言葉、結婚前にも良く言われたな…。大丈夫だ。俺の健康は花がちゃんと考えてくれてるから。」
ニコッと笑って焼肉をパクパクと頬張る。

「お腹空いてたんだね。でも消化に悪いからゆっくり食べて。」
花は柊生に微笑む。

「昼に出た弁当を食べ損なったんだ。」

「また、お昼食べれなかったの?
そっちの方が心配だよ…。」

柊生はいつだって仕事を優先して、食べる事さえ後回しにしてしまう。

「昼を狙って電話とか来るからどうしようも無いんだ。メールで済むのはなるべくそうしてるけど。
花とは出来るだけ電話がいいから、遠慮するなよ。」

昔から柊生は花が思ってる事を、何かと先に勘づいてしまう。

「はい…。」
何も言う事が無くなった花は苦笑いする。
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