若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「…柊君、下も着なきゃダメ?」
試着室のカーテンから顔だけ出して花が問う。
「そちらにインナーショーツをご用意してありますので、是非試着してみて下さい。」
店員さんがにこやかに言う。柊生を見れば楽しそうに腕を組みうんうんと首を縦に振る。
これは着なかったら先に進めそうも無いと、花は仕方なく覚悟を決める。
パンツの部分にもサイドがリボンで結ばれていて、可愛いけれど花にとってはかなり恥ずかしい水着だった。
「花、着れた?」
柊生がカーテンの向こうから話しかけて来る。
ショップには他にもお客さんがいるし、ちょっと恥ずかしくて出るのに躊躇してしまう。
「柊君…ちょっと着て。」
迷いに迷ったあげく、広い試着室だった為柊生だけ中に入ってもらう事にする。
「入るぞ。」
「…どうぞ…。」
やっぱり恥ずかしくて瞬間脱いだワンピースを抱きしめ、若干見えないようにする。
柊生は堂々と入って来て、花の水着姿を上から下まで見つめる。
「隠さなでちゃんと立って。」
パッとワンピースを奪われ、花はバタバタする。
「ち、ちょっと、柊君、意地悪。」
カァーッと瞬間真っ赤になった顔を両手で隠す。
その手を柊生によって容赦無く取り払われ、両手を握られる。
「…すげぇ…。」
柊生らしからぬ言葉が漏れるから、花はびっくりして柊生を見つめてしまう。
「…ごめん。キスマークつけ過ぎたな。」
花の耳元でこそっと言う柊生も、若干顔が赤く見える。
花はひゃっ、となってギュッとしゃがみ込んで鏡を見る。
よく見ると体の至る所に桜の花びらのようにピンクに散っている。
「ラッシュガード着れば隠せる。大丈夫だ。」
普段から服で隠れる場所にだけと一応考慮していたのだが、さすがに水着を着る事になるとは昨夜の段階で予想はしていなかった。
柊生はちょっと待ってろと、試着室から出て白に花柄の可愛いラッシュガードを持って来て花に着させる。
「他のは試着しなくていいの?」
花がこっそり柊生に聞く。
「それが本命だから、他はカムフラージュだ。」
どういう事?っと花は首を傾げる。
「絶対花は先にそれを着ないだろうと思ったから…徐々に段階を踏んで着てもらおうと思ってたんだ。」
花は、逆にこれは無いと思ったから先に着てしまえと思ったのに…と思う。