若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
えっ!?三人は突然の告白に言葉を無くす。

「えっ…だってあんなに仲良さそうだったのに。」
美波先生がつい、と言うふうに呟く。

「子供ばっかり可愛がって私のことを見てくれてないって…昼間は結局、ワンオペ育児になるでしょ。1人で抱え込んじゃったんだろうね。育児ノイローゼ気味だったみたい。」

思いがけず深刻な話になって、その場にいる誰もが息を飲む。

「女の人ってさ。子供が出来ると急にお母さんになっちゃうからさ。僕も知らないうちにママって目で見ちゃってたんだろうね。」

遠藤先生が寂しそうに笑う。

「…実家に帰ってどのくらいになるんですか?」
間柴先生が珍しく深刻な顔で聞く。

「3週間かな。電話では話してるんだけど、会いたくないって言われちゃってて。」

一緒に仕事をしてるのに私は全く気付かなかった。

そんな時でも気丈に笑顔で子供達と接していたんだと思うと心が痛む。

「あの、私に力になれる事ありますか?」

「花先生にただ、話を聞い欲しかったんだ。今は離れてる方がお互いにとっていい事だと思うし、冷静になって考えられるから。」

「お子さんは、寂しがってませんか?急にパパに会えなくなって…」

自分だったらどうだろうと思いながら話すけど、私の幼少期は実父から逃げる日々だった。
何の参考にもならないとため息が出てしまう。

「どうだろう。
まだ1歳だからね…
やっぱりいつも一緒にいるママがいれば大丈夫なんじゃないかなぁ。」
自虐的な感じに見えて辛くなる。

「遠藤先生は花先生に悩みを聞いてもらって、慰めて欲しかったんですね。
その気持ち、分からなくもないですけど…
ただ、逃げてるとしか思えません。」

間柴先生が急に厳しい事を言いだすからハッとする。

「逃げてる場合じゃありませんよ。
子供の為にも話し合って、直すべき所は直さないと大変な事になります。」

畳み掛ける様に厳しい言葉で叱咤激励する間柴先生は、いつもの爽やかな体操のお兄さんみたいな雰囲気じゃなくて…

取り繕う言葉も出てこないほどその場の空気が冷んやりした。

「実は僕、母子家庭だったんです。
父が居なくて寂しく思う時もありました。
友達のお父さんを羨んだりして育ったので、父親が居ない子供は増えて欲しくないんです。
遠藤先生はまだ修正可能です。
僕が中に入って取り持ってもいいので、諦めないで下さい。」

間柴先生の内に秘めた熱い想いを知る。

「遠藤先生、私も母子家庭です。
実の父とは一緒に暮らす事が出来ませんでした。家族は出来るならば一緒にいた方が良いんです。私も協力しますから、仲直りして欲しいです。」

私も何かできないだろうか…家族がバラバラになるのだけは止めたい。
< 75 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop