若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「あの、貴方ほどの人ならばきっと凄いアドバイスを頂けると思うので、折言ってご相談が…。」

遠藤先生の隣に座る間柴先生がゴクリと喉を鳴らし固唾を飲む。

「ちょ、ちょっと、遠藤先生。一回、落ち着きましょう。突然相談するには…さすがに重い内容では?…。」

そう言ってさすがの美波先生もソワソワし出す。

柊君はと言うと、落ち着き払ってそのやり取りを静観しているようだ。
私は場の雰囲気に飲み込まれながら、一言も発する事も出来ずに見守る。

「とりあえず話してみて下さい。
私の専門分野であれば良いのですが。どのような事でしょうか?」

微笑みを讃えながら、柊君は冷静に遠藤先生と向き合う。

遠藤先生は大きく深呼吸を一つして話し始める。

「実は…あの…
妻が実家に帰ってしまいまして…。」
自分が置かれている現実を全て柊君に話し始める。

うんうんと相槌を打ちながら柊君も真剣な顔をして聞いている。

「結論から言うと、貴方は奥様に帰ってきて欲しいんですね?
それでしたら、こんな所で話している場合では無いのでは?

今すぐ迎えに行くべきです。強引でもなんでも愛を乞うしか方法は無いです。
下手なプライドなど捨てて、必要ならば土下座するくらいの覚悟で迎えに行って下さい。」

遠藤は衝撃を受ける。

あの、一橋旅館の御曹司で、おまけに経営コンサルタント会社の社長が?

三巴のスーツをピシッと着こなし、誰もが羨む容姿を持ってでも、跪いて愛を乞えと言う…。


ここにいる誰もが信じられないと言う顔をするが、私だけは妙に納得して柊君らしいと微笑んでしまう。

確かに柊君って一見、カリスマ性に溢れていて亭主関白にも見えるし、どこか冷めていて媚びる事も、下げへつらう事も絶対しないプライドが高い人のように見えるけど。

だけど…付き合う事になった時、あの冷たい弓道場の床に正座して頭を下げて来たよね。

恋愛事に関しては一途で、熱くて、可愛い人。
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