若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「花、一回抱きしめさせて。」
車に乗り込んで早々、柊生が花を抱きしめる。

「ごめん、花は複雑かもしれないけど…俺はただただ嬉しくて、気持ちを抑えられない。」

「ごめんじゃないよ。
私も嬉しい。思いがけず神様から貰ったプレゼントみたい。」

ふふっと笑う花が、可愛くて愛しくて堪らずキスを落とす。

「ありがとう花。俺も宝物を手に入れた気分だ。」

今なら、花の頭の中のお花畑の住人になりたいと思うほど、柊生は幸せを噛み締める。

「でも、明日からどうする?
大事な時期に保育園で働いて、身体に負担はないか?
園の子達が突然飛び付いて来たらどうする?
だって、俺達の赤ちゃんはまだこんなにも小さいんだ。」

柊生は心配症を丸出しにして、指で赤ちゃんのサイズを形作る。

「小さいね。」
花もその指を見つめて実感する。

「後からドンッて飛びつかれたら、その振動で落ちたらどうする⁉︎」
花は柊生の想像力に少しフフッと笑ってしまうが、

「そんなに簡単に落ちたりしないでしょ。」
と、笑いながら受け流す。

「花はどうしたい?」
柊生はいつだって、どんな時だって花の気持ちを最優先してくれる。

「私は出来ればギリギリまで働きたい。
まだ、入社して半年も経って無いしせっかく慣れて来たところだもん。
柊君の心配は痛いほど分かるけど…。」

柊生は花をもう一度ギュッとしてから離れて行く。

「とりあえず、家に戻ってからちゃんと考えよう。」

柊生は、いつもより明らかにゆっくり安全運転で車を走らせる。
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