若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
帰宅して時計を見れば14時を回っていた。

昨夜買ったコンビニスイーツの残りを冷蔵庫から取り出しダイニングテーブルに並べる。

「これってある意味子供の頃の夢だよね。
好きな物だけ食べれば良いなんて、贅沢だね。」
花は椅子に座りながらニコニコと話す。

「食べられる物が限られてるんだ、仕方ない。」

「こんなのばっかり食べてたら太っちゃうね。」
花はスイーツの中からモンブランを選ぶ。

「花は少し太った方がいい。赤ちゃんの為にも栄養を蓄えておかないと。」

柊生は大福やチーズタルトを選びわざわざ包丁で半分に切り出す。

「小さくすれば食べやすいだろ。今の花はカロリー不足だから、高カロリーの物をちょっとずつでも食べた方が良い。」

医者の指導では、悪阻の時は味の傾向が偏る為、食べられる物をちょっとずつ食べる事。

「幼稚園だと昼食もままならないだろ?ポケットにお菓子とか入れてちょっとずつ食べたり出来るのか?」

花はいろんなシチュエーションを考えてみる。
子供達は結構めざといからポケットだと見つかってしまうかもしれない。

普段からトイレに行くのだって大変なのに…どうやって食べる?

「安定期までは園には言えないし、仕事の時は花しか赤ちゃんを守れないんだ。何よりも自分を大切にして欲しい。」
心配顔で花を見つめる柊生の気持ちが痛いほど伝わってくる。

「無理はしないよ。柊君に心配されないようにちゃんと食べるし、休める時に休むね。」

花は少しでも安心させるように笑顔で答える。

だけど、柊生の心配は拭えない。

欲を言えば、明日からでも仕事をセーブして欲しい。
思いがけないとはいえ初めて芽生えた大事な命だ。
そして命に変えても守りたい大事な花に何かあったら生きてはいけない。

だけど、やっと夢が叶って歩き始めたところだと言う事も重々分かっている。
自由に生きて欲しい。
俺の思いで縛り付けたくは無い。

幸せに毎日を過ごして欲しい。

柊生は自分の中でいろんな気持ちと戦う。

「花、園長先生に体調不良だとだけは伝えさせて。花は他人より我慢強くて、1人でなんとかしようとするところがある。
俺はそれが心配でならない。俺の目の届かない所で無理してるのが目に映る。」

「分かった。それで柊君が少しでも安心出来るなら良いよ。」
こくんと花は頷く。

「女将さんには伝えておくか?」
花の唯一の肉親だから、いち早く知らせるべきだろうと柊生は思う。
こくんと花は素直に頷く。

それ以上は何も言えないと柊生はフッとため息を吐く。

その日はずっと花を甘やかし、事あるごとに餌付けのようにスイーツを口に放り込んでくる柊生に、ふふっと笑ってしまいながら花は大人しく甘える事にした。

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