若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
実はこのところ、柊生には内緒にしているのだが、花が1人で家に居る時は、急に吐き気がしてトイレに篭る事が増えている。

だけど柊生が一緒の時は途端に体調が良くなるのだ。

仕事場だと気を張っているせいか、悪阻が収まると言う事は良くあるらしいが、花の場合は柊生が居る時も同じような現象が起きている。

決して気を張ってる訳では無く、むしろ柊生が居るだけでホッとして、安らぎすら感じているのに、何でだろうと花は不思議に思っている。

仕事に行く前の少しの間、柊生は花を膝に座らせキスをするのが最近の日課だ。
夜の触れ合いを耐えている為か、日に日に濃密な感じになっていく。

降り注ぐキスに花は翻弄されながら、なんとか柊生を止める。

「…柊君、そろそろ……お迎えの時間だよ…。」
朝から呼吸が乱れるほどのキスは抑えて欲しいと、花は思う。

「花不足で死にそうなんだ。
1年間も耐えるなんて、世の中の夫婦はどう乗り越えてるんだ。」
抱きしめながら訴えられるが、花には慰める術が分からない。

よしよしと背中を撫ぜてみるけど、

「朝から煽らないでくれ。」
と、柊生には逆効果らしく困ってしまう。

「今日、先生に聞いてみようか?」

「…それだけはやめて、良からぬ噂が立つといけない。」
柊君はいつ何時でも一橋を背負っているなんだなと思い、ふふっと花は微笑む。

そこでピンポン、と玄関のチャイムが鳴り迎えが来てしまう。

柊生は、はぁーと深いため息を吐き、名残惜しそうに花をそっとソファに下ろす。

「じゃあ、行って来る。病院には康生に送迎を頼んであるから。」

「康君にはそろそろ妊娠の事話して良いかなぁ?」
花は柊生に聞く。

「そうだな。保育園の送迎も頼むから、案外気付いているかもしれない。花のタイミングに任せる。」

「うん。じゃあ、今日の診察の感じで決めるね。」
花はカバンを持ち柊生を玄関まで見送る。

「だけど、俺より先に診察結果伝えるなよ。何よりも俺が先に聞く権利があるんだからな。」

この兄弟は子供の頃から変な事で競い合う。
花は若干呆れ顔でこくんと頷く。

「分かってるよ。はい、気をつけて行って来てね。」
カバンを手渡し手を振ってお見送りをする。

「行ってきます。」
柊生は軽く花の頬にキスを残して出かけて行った。
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