乙女と森野熊さん
「構わないよ、そういうタイミングだったんだろう」
「言いたくなかったの?」
つい不安そうに聞いたら、熊さんに気づかれてしまった。
「別に乙女ちゃんの存在を隠そうと思ってた訳じゃ無い。
ただ自分の家族の話をいちいち仕事場で話す必要は無いと思っていただけだ」
「そっか。あと本田さんとかお葬式の手伝ってくれたのに私知らなくて失礼なことしちゃった」
「同期や友人は俺が結婚することを知っていたから事故を知ってすぐ手伝いに来てくれたんだ。
乙女ちゃんには少ない時間ゆっくり家族と過ごして欲しかったから、あえて会わせることもしなかった。すまない」
「ううん、自分のことで一杯一杯でそういうこと気づかなくて。本田さん以外にも手伝ってくれた人にはいつかちゃんとお礼が言いたいな」
「わかった」
熊さんだってお姉ちゃんとの最後の別れを過ごしたかっただろうに私がいたから全部やってくれて、そして熊さんの友人達に助けられていたことを私は今の今まで気づくことも無かった。
私は熊さんが私を気遣って裏でしていることをきっと沢山気が付いていないのだ。
自分では少しはそういうことに敏感だと思っていたけれど、所詮は高校生の子供だと私は再認識する。