乙女と森野熊さん
「君が決めることだ。
ただ、君は君であって、父親の従物、付属する存在じゃない。
いずれ君も一人で人生を歩む。どんな形であれ生きていなければ、新しい出会いや出来事を知ることは無い。
それが幸せなことか不幸なことかは誰にもわからない。
だが俺なら生きる事を選ぶ。たった一度与えられたチャンスだからね」
「あの、熊さんは、奥さん亡くして死にたくなったりしなかったんですか?」
真奈美の質問に私はびくりと熊さんを見る。だってそれはずっと私が聞きたくても聞けなかったことなのだ。
「君は知らないかもしれないが、俺は何人も家族を亡くしている。
だからこそ生きることを選んだんだよ」
何人も亡くしている、熊さんは両親も祖父母もいない。その事なのだろう。
でも家族が亡くなった理由を知らない。何だかそこがずっと引っかかって、亡くなった理由を未だに聞けていない。
真奈美はそれを聞いてまた俯いてしまった。
沈黙が続いていたがドアのノックする音が聞こえ、私も真奈美もドアを見る。
熊さんがドアを開ければ男性が立っていて熊さんに小声で話す。熊さんがわかったと答えてこちらに視線を向けた。