乙女と森野熊さん
「聴取を再開したいそうだ。それとお母さんに連絡がついた。今こちらに向かっているらしい」
その言葉に真奈美の顔が一気に泣き出しそうになった。
「真奈美、学校来るよね?」
そう聞いたのに、真奈美は曖昧な笑みを浮かべた。
心配になって何か言おうとしたら熊さんに目で部屋から出るように促され、私は仕方なく立ち上がる。
もし真奈美が学校を数日休むことになっても、私から会いに行けば良いことなのだから。
座ったままの真奈美が私を見上げると、次に入り口近くにいる熊さんに視線を向けた。
「熊さん」
真奈美の声に熊さんが数歩こちらに近づく。
「乙女、熊さんを縛ったらいけないからって大学進学せず公務員になるって言ってました」
まさかの告げ口に私は驚いて真奈美を見た。そんな真奈美は笑っている。
「情報提供、感謝する」
「私は乙女の女子大生姿が見たいだけですから」
熊さんは抑揚もなくそう言うと、私の肩に手を回しドアの外に連れ出し私は肩越しに振り返って、
「真奈美!約束だからね!」
そう言ったのに、真奈美は笑っているだけだった。