乙女と森野熊さん
熊さんが久しぶりに夕飯を一緒に食べられるこの日、私は生徒会の仕事を最低限終えスーパーに寄ってから急いで夕食の準備をしていた。
なんせあのでかい熊さんはよく食べる。いや、食べ物は飲み物というレベルである。カレーは飲み物、その人種だ。
一時期異様に忙しくてお弁当を持って行くことも断られたが、余計にきちんと食べているのかヒヤヒヤしていたところ、案の定何も食べずに仕事をしていると平然と返されたときは、なんて酷い職場だと憤った。
なので迷惑だとは思ったけれど、こんなでかい熊さんがちゃんと健康でいてくれるために、食べられないときは持って帰ってくるか捨てて良いからと無理矢理お弁当を持たせたのだが、お弁当があると食べなければいけないと義務感がおきるのか、必ず米粒一つ残さず空になったお弁当箱が戻ってくるのでこの方法で良かったのだとほっとした。
人の良い熊さんのことだ、他の人から仕事押しつけられてないのかと聞いたら熊さんは表情を変えず、一人にする時間が多くてすまない、とだけ言って謝った。
警察という場所に勤めていると、内容とか話してはいけないのかもしれない。
もしもお姉ちゃんと結婚して一緒にいたのなら、きっとお姉ちゃんに会いたいから早く帰ったのだろうな、なんて思いもしてしまうけれど、熊さんは子供の私を一人にすることを心配して忙しい中早く帰ってきているのだと思うとやはり申し訳ない。
お父さんとお母さんと一緒にいたときは、そんなこと考えもしなかったのに。
ピンポーンという音がして、鍵の開く音。
熊さんからは一人でいるときにチャイムが鳴っても一切出るなと言われている。
マンションに宅配ボックスがあるがあるというものの、すぐ受け取らないといけない時もあるしと話し合って少し約束を緩めてもらった。