乙女と森野熊さん

「お帰りなさい!」


「ただいま」


無表情、相変わらずの無精ひげ、一応スーツ姿なのだがよれっとしている。

ネクタイも嫌なのか、形だけしているみたいなだらしなさ。

だらしない感じがするけれどそこまで不潔では無い、と思う。

リュックを持ち歩いているけれど、お弁当と電車で読む本しか中には無い。

仕事上、外に情報を持ち歩くことは無いのだそうだ。

熊さんの部屋の前までついてき、空のお弁当箱を受け取りながら、


「お風呂沸いてるよ。上がったらご飯ね。

今日はビール飲める日?」


「いや、飲めない」


「了解」


そういうとパタンとドアが閉まって私がキッチンで準備をしていると、熊さんがお風呂に入った音が聞こえる。

熊さんは仕事柄急に呼び出され車を運転することもあるためか、完全な休暇じゃ無いとお酒を飲めない。

本来はどんなに飲んでもケロッとしているけれど、お父さんだって毎日晩酌を楽しみにしていたから、何だか楽しみが減ってそうで心配だ。

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