乙女と森野熊さん
「失礼します」
私はそれから数日後の放課後、鞄を持ち国語準備室のドアを入りその中で一人だけいる教師の横に行く。
「珍しいなぁ山浦が質問なんて」
「すみません、恥ずかしいのであまり質問に行くのは苦手なんです」
顔を背けるように俯いて声を小さくして言えば、そうかそうかと前から笑いを含んだ本村の声がするが、何ともその声が気持ち悪い。
「小論文の勉強をしたいのですが、何から手をつけて良いのかわからなくて」
「なるほどな。とりあえずここに座りなさい」
はい、と言って本村のすぐ近くにある席を勧められた。
私は足下に鞄を置き、鞄からノートとシャープペンシルを出す。
ったくなんでこんな膝がすぐぶつかりそうな距離なのよ。
そして私が座るときに足下から上まで舐めますような視線を浴びて鳥肌が立っている。